EOS津野の 電子光学講座Electron Optics Solutions contact: eostsuno@yahoo.co.jp/td> | SEMなどの加速電圧の低い装置では、分解能の実質的な向上には、球面収差補正より
も色収差補正が重要です。最終段レンズは、凸レンズでなければならないというシェルツァー
の定理から、凹レンズを付け加えただけでは、色収差補正ができません。凸レンズと凹レンズ
の組み合わせで、凹レンズの作る負の色収差に凸レンズの作る正の色収差を上回らせて、実像
を作らなければならないという点で大きな山がありました。 一般的に電場レンズの方が磁場レンズより大きな収差を持ちます。これを利用して、電場4極子 と磁場4極子を重畳させ、レンズ作用としては、磁場の方を強くして収束レンズとしながらも、 発散レンズ作用を行わせる電場レンズの負の色収差が収差としては残るようにしたのが電場磁場 重畳型の色収差補正です。Koopsのアイデアから20年の後にZachが実験的な成功を収めました。 そして、商品化まで再び10年の歳月を要しました。しかし、市場の反応は複雑でした。SEMで 空間分解能の向上を待ち焦がれていたのは半導体検査装置だけでした。その他の汎用SEMは むしろ、像コントラストの方に興味がありました。しかし、一時はほとんどの電子ビーム装置 メーカーは必死でその技術の取得と自分たちの販売してい装置への搭載を狙って技術の取得を 試みました。収差補正は電子光学応用の最もホットな話題となりました。いまは落ち着いています が、やがては光の顕微鏡が、非球面レンズと言う収差の無いレンズを使うのが当たり前になって いるように、収差補正されたレンズを使うのが当たり前の時代を迎えることになるのでしょうか。 疑問の点は、格子像が見える2Åよりも、少しだけ分解能の劣る領域は、空白の分解能領域 と言いますか、ウィルスなどの小さい物質を過ぎると、後は人工生成物以外には、格子像まで、 見るもののない空白の分解能領域が広がっています。 |
電場・磁場重畳4極子による色収差係数Cc補正4段4極子による基本軌道br> 色収差は、レンズ作用がエネルギーの高いビームに対してよりも エネルギーの低いビームに強く働くことで生じます。図1で青の点線は赤の 実線よりも高いエネルギーの場合を表しています。エネルギーの弱いビームである 赤線の方が強いレンズ作用を受けて早く収束し、中心線(光軸)と交わっています。 この場合を正の軸上色収差Ccがあるといいます。上の定義に従うと、 図1のような凸レンズ(収束場)は正の色収差、図2のような凹レンズ(発散場)は 負の色収差を作ることになります。というのも、両直線を延長して光軸と交わる点 を求めると、赤の方が先(右)に来るからです。以上の考察からわかることは、色収差補正を行うためには凹レンズを準備しなければ なりません。しかし、前に説明したシェルツァーの前提の中に、レンズの物面も像面も 実空間になければならないという決まりがありました。このことから、凹レンズ単独では 収差補正の条件を満たされないということになります。凹レンズによって負の色収差 を作っても、それは虚像を作るだけだからです。負の色収差を実像で作るた めには、図3に示すように、凸レンズで凹レンズを挟んだ上で凸レンズの作る正の色収差 が凹レンズが作る負の収差を上回らないようにしなければなりません。しかも、凸レンズ と凹レンズのレンズ作用が同じではダメで、全体として凸レンズにしなければなりません。 つまり、レンズ作用は凸レンズが勝り、収差は凹レンズが勝ると言う組み合わせレンズを 作る必要があるわけです。どうすれば図3のようなレンズ配置でありながら負の収差が 正の収差を上回ることができるでしょうか。 それは、球面収差Cs補正のときと同じ4段の4極子を用いることによって実現 できました。もう一度、図4で四段の4極子が作る基本軌道を見てみましょう。 XZ面の電子の軌道と、YZ面の電子の軌道が違う振る舞いをしています。4極子はX方向が 凸レンズの時、Y方向は凹レンズになります。この厄介な性質も、それを四段組み 合わせてやれば、最終的に丸いビームに戻してやることができます。 真ん中の段に、所々の位置における収差図形を示してあります。 電子ビームはこの図の場合最初にZX面でフォーカスし、YZ面では広がっています。 つまり、ZX面では凸レンズですが、ZY面ではビームが発散していますから凹レンズに なっているのです。4個の4極子のちょうど中間で電子ビームはいったん丸くなります。 そして次の3番目の4極子のところで、今度はZY面内でフォーカスし、ZX面内で発散 します。両方向のビームは、4番目の4極子によって形を整えられて、再び丸いビーム となって外に出ていきます。 ここまでの過程では何も負の収差作りはやっていません。これは負の収差作りのための 土台を準備しただけなのです。次に、負の色収差をどのようにして作るのかをお話しします。 4極子によるCc補正の2つの方法さて、4極子は、図5に示すように、一方で凹レンズ作用をさせると他方で凸レンズ 作用をしてしまいますので、上の基本軌道に示したように、X方向の軌道が最大に なったところで、Y方向の軌道を光軸を通してX方向にだけ4極子の効果が効くような 基本軌道が必要だったわけです。ここまでは、8極子を使ったCs補正と同じ考えです 。しかし、この基本軌道を見てわかるように、軌道が最大値を示しているところでは、 レンズ作用は凸レンズになっています。つまり、ここではせっかく色収差を作っても、 それは正の色収差になってしまいます。しかし、この位置に凹レンズを置けば、ビーム はさらに発散してしまうだけで、基本軌道から逸脱してしまいます。この点が色収差補正の難しいところで、色収差を作る4極子は、フォーカス作用も持って いるため、収差の生成とフォーカスとが混ざってしまうのです。これに対して、球面 収差Csの補正のときには、収差と、フォーカスとが独立にコントロールできたため にわかりやすかったわけです。 四段の4極子の2, 3番目の4極子は収束場ですが、ここに同時に負の色収差を持つ発散場 を作り、これを収束場のもつ正の色収差より大きな値にすることが必要になります。 このようにする方法は、実は2つ提案され、いずれの方法も実験的な成功をおさめています。 a. 電場4極子と磁場4極子を組み合わせて、収差の大きい電場を発散、収差の小さい磁場を 収束に使い、全体としては収束だが、電場の大きな負の収差を残すことで負の収差を作り ます。 b. 基本軌道を含めた4極子全体を電場で作ります。凹レンズ作用を持たせる場所では 図3のような3段組のレンズを使い、両側の凸レンズには減速と加速作用を持たせ、真 ん中の凹レンズの加速電圧を低くします。これで、発散場のレンズを弱い場の中に置く ことで大きな収差を作らせる ことができます。 以下では、電場・磁場重畳法について説明し、リターディング法は別の章でお話します。 電場・磁場重畳4極子によるCc補正基本となる軌道は4-8極子を用いたCs補正の場合と同じ4段の4極子です。これは図4 に示してあります。この4段の4極子のうちの2段目と3段目を電場と磁場の重畳 出来るタイプの4極子で作ります。これを模式的に図6に示します。基本軌道だけですと、 この図にあるような凸レンズと凹レンズにはなりません。ここに示してあるものと逆になります。 わかりにくいですので、順を追って説明しましょう。 1. Cc補正のための基本軌道には4個の磁場4極子を用います。 2. 最初の4極子でx方向とy方向の軌道を分けます。 3. 2個目の磁場4極子はx方向に収差を作りますが、 y方向は光軸を通り収差は生じません。 4. 3個目の磁場4極子はy方向に収差を作りますが、 x方向は光軸付近で収差は生じません。 5. 4個目の磁場4極子で2つの軌道を一致させます。 6. 2,3個目の磁場4極子で軸からはなれた軌道は凸レンズですから、そのままでは発生 する色収差は正です。 7. 負の色収差を作るために、反対向きのレンズ作用を行わせる必要があります。 8. 電場4極子を第2,第3の4極子に重畳し、レンズ作用は磁場4極子と逆にします。 すなわち、発散レンズにします。発散レンズの色収差は負です。 9. 磁場4極子を強くして発散レンズ重畳で乱れたフォーカスを調整します。この 色収差は、凸レンズなので正です。 10. 電場4極子の作る色収差は、磁場4極子の作る色収差の倍あるので、差し引き、 電場4極子の作る負の色収差が残ります。 基本軌道を維持するためには、磁場レンズは常に電場レンズのレンズ作用より、 一回分余計にフォーカスする分の電流を流さなければなりません。しかし、これは 常に一回分余計であれば良いだけです。ところが、電場4極子の負の収差は常に磁場 4極子の正の収差の倍ですから、両者の電流と電圧を一回フォーカス分だけ磁場を強く しながらどんどんあげて行きますと、電場による凹レンズの作る負の収差が増えていく ことになります。つまり、いろいろな大きさの負の色収差を作ることができると言う わけです。 電場・磁場重畳型4極子による色収差補正の歴史1979 H. Koops 5段磁場4極+2段電場4極子,30kVの TEMに搭載。1995 J. Zach, M. Haider 電場・磁場4-8極子によるCs, Cc補正実験成功 SEMに搭載。 Koopsの5段磁場4極+2段電場4極子は、30kVのTEMに搭載され、Ccを1.5mmから0.1mmに 減少させたと報告されています。これは、1978年のことで、Zachの実験的成功が1995年であっ たことからその20年も前のことです。Koopsの方法は、ZachがSEMで成功した方法に 4極子を一段増やして、TEMでも使えるよう軸外収差にも配慮した対称な電子軌道を 取る系が採用されていました。 これに対し、ZachはSEMを補正対象としていたため、中心面対称を放棄した系に なっています。Roseが進めているTeam projectでは、再び中心面対称を入れた系に 戻っていますが、Koopsの系に比べてずっと複雑になっているのは、対象がTEMではなく、 Lithography装置を想定していたために像面湾曲や非点収差にも配慮したためです。 Zachが実験的成功を収めるために、最初はより簡単な系で実験した方が良いと判断 したことが、中心面対称を放棄した理由と考えると納得できます。 現在、SEMはSTEM収差補正の圧倒的な普及と比べると半導体検査装置に導入されて いる程度でその市場への浸透度は低いですが、1995年に電子顕微鏡で収差補正に本当 に応用できるレベルで成功したことは電子顕微鏡の世界に大きな衝撃を与え、そこから 収差補正の時代が一気に始まりました。 次はリターディング電場4極子 によるCc補正 |
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