EOS津野
電子光学講座

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高分解能のエネルギーアナライザと言えば日本では、早稲田大学の大島先生の CDA127型のエネルギーアナライザを思い浮かべます。大変すばらしいもので、きっと ノウハウの塊でとても素人に作れるような代物ではないと誰しも思っているのでは ないかと想像されます。装置の設計の仕方は、初期の論文 C. Oshima, R. Franchy, H. Ibach, Rev. Sci. Instrum. 54 (1983)1042に詳しく書いてあります。著者に 名前が入っているように、Ibachのところにオリジナルがあるわけです。ノウハウ の塊のように見えても、コンピューターシミュレーションをしてみると、このフィルタ はわかりやすい、初心者にも手のつけやすいものであることがむしろわかってきます。 電子顕微鏡の電子レンズが有限要素法シミュレーションの導入によってその分解能を 飛躍的に向上させたように、エネルギーアナライザも初めての取り組みでも、 シミュレーションの活用で作れるはずだと信じて解析してみましょう。

一方向収束静電プリズム・CDA127

CDA127の立体構造。FEMシミュレーション用メッシュ

CDA127と言うのは静電プリズムに属するエネルギーアナライザで、電子のエネルギーによって 回転運動の半径が異なることを利用して分散を作らせ、検出器の位置に電子をフォーカスさせます。 一様磁場の中で電子は回転運動をしますが、一様電場の中では電子は放物線(Parabolic)運動を します。回転運動をさせるには、同心円内に一様な電場を作ります。内側にプラス、外側に マイナスの電圧をかけます。なぜなら、電子はマイナスのチャージを持っていますからプラス の電極のある方向に引き寄せられるからです。 127°と言う角度が重要になってきますが、これは、一方向フォーカスをする電場フィルタは、 物面から127°回転したところでフォーカスをすることがわかっているからです。これは、 ニュートン・ローレンツ方程式を解くと素直に出てくるのですが、その式の導出は、別の 電子光学のところでお話します。

ここでは、具体的な設計に必要な式だけを紹介して、シミュレーションに必要となる数値を 求めてしまいます。
電場の見積もり
Uo=5000 V (加速電圧5kV)
R=0.045m, Se(電極間距離)=0.012m
E1 = 2Uo / Re =2*5000/0.045 = 222222.2
V1=E1*S = 222222.2*0.012 =2666.7V。

左右の電極に、+1333.3Vと-1333.3Vを印加すればよいことがわかります。
ここで大切だと考えられてきたことが、これらの円筒の入り口と出口のところの処理です。 何もしないで電場の計算をして見ますと、図1左のようなポテンシャル分布となります。電場が 外に大きく漏れ出しています。これはあまり良くなさそうに見えます。実際、この種の エネルギーアナライザの設計と言うのは、この入り口と出口、これをまとめてフリンジと 呼んでいます、フリンジ場の処理をどうするかと言うことが、エネルギーアナライザ設計の 鍵を握る事項と考えられてきました。

上に紹介した大島論文にも書いてありますが、このフリンジを詳しく研究したのはドイツの Herzogと言う人で、Herzogのモデルを知っているかどうかが問われたわけです。しかし、これは 数値シミュレーションができなかった時代の話しです。いま、われわれはHerzogさんの世話に ならなくてもエネルギーアナライザの設計をすることが出来ます。

図2は、円筒電極の両側に5°分だけ空間を伸ばし、その前と後に同じ円筒電極を20度分だけ 追加して、但し電圧はかけないでアース電位に置いた場合のポテンシャルを示しています。 このような電極の前後にアース電位の金属を置いて、フリンジ場の調整を行うものを シャントとか、ミラープレート、あるいはシールドプレートなどとさまざまな呼び方が なされていますが、これによって、電場が空間に広く分布してしまうのを防ぐことが 出来ます。

ここでは、円筒をそのまま繋げたのですが、実際に作るときには極率を付けずにまっすぐな ものをつけます。というのも、電極の外では電子は直進運動をしますから回転電極を延ばす ことに意味はありません。ここでは、電場計算のためのFEMメッシュの製作が容易なために、 そのまま円筒を伸ばして計算したのです。

電子軌道の計算は、上で求めた1333Vの付近でいくつかの値で行ってみました。より強い電圧、 1400V, 1350Vでは電子軌道が内側の電極に近づきすぎていることがわかります。弱い電圧1300V の場合は逆に外側の電極の方によっているように見えます。図3が丁度の電圧1333Vを加えた 場合で、このとき初めて両電極の中央すなわち回転半径R=45mmとなっているのがわかります。

計算どおりの値でシミュレーションが進んだと言うことは当たり前のことですが、たいていは 解析的に求めた値と、シミュレーションの値はずれるものだと言う思い込みがありましたので、 今回のこの一致はちょっと意外でもありました。CDA127と言うエネルギーフィルタは、 フィルタ形状としても単純なので、解析解とよく一致するのかもしれません。

ただ、フィルタを出てからビームが水平に進んでいるかどうかについては、水平の場合は ない様にも思えます。これは、シャントの形にも大きく依存すると思われますので、 シャントをきちんと設計して挿入する必要がありそうです。127°と言うフォーカスの角度も シミュレーションでも確かに127°の位置でフォーカスしているように見えます。しかし、 127°と言うのはシミュレーションをやりにくい角度です。と言うのは、入射ビームは水平に 入れてやりますが、出てくるビームは傾いていますから、図では、出てくるビームを水平に するために軌道の図を描いてから図形的に回転して出てくるビームが水平かどうか見やすい ように並べています。ビームは右下から上って行って、水平に出ています。

シミュレーション

Disp=12μm / Cos(37°) = 15.68μm
ここでCos(37°)で割っているのは127°の方向でビームが出ているので、これと垂直な面内で、 分散が起こっていると考えられるからです。見積もった値と比較してみると、37°の補正を 行わなかった値が計算値とよく合っています。ですから、シミュレーションで補正した値は、 計算値より大きな分散を与えています。

エネルギー分解能を求めるには、ビームの入射条件を決めなければいけませんので、前段の レンズの条件などの入力が必要になりますので、ここでは扱えません。その問題はまた別の ところで論ずることにしましょう。 ここで分散を見積もってみましょう。
分散
D = (√2)(2φ2R / π2)δ = 23/2x1272x45 / 1802 x5000 = 12.67 μm

と成ります。シミュレーションでは左の図に示したように、ZY面と言うのは、今までの図で縦方向と、 紙面に垂直な方向ですが、この面でのビームの形をプロットしています。電子ビームは、5kVの電圧に対して、 1eVずつ5eVまで減らした場合を計算しています。
作成日 2012/09/25 修正 2014/09/14, 2018/03/14, 2018/12/30 .

図1.シャントのない場合の電場ポテンシャル。

図2.シャントをつけた後の電場ポテンシャル。

図3.計算どおりの電圧1330Vを加えた場合

図4. エネルギーを1eVずつ変えた5本のビーム

文献

1.




目次(エネルギーアナライザ)
.アナライザの分類
.飛行時間TOF法
半透明ミラー
.CDA127
.SDA180(HDA)
.半球アナライザ
.TOFと磁気ボトルを使った光電子分光
.

目次(全体)

1.最初のページ
2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
4.光電子顕微鏡PEEM
5.エネルギー・アナライザ
6.Wien Filter
7.収差補正
8. スピン回転器
9.著者のページ