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TOFと呼ばれる分析装置があります。Time Of Flightの略で、粒子が真空中を飛ぶ時間を計測することによって、 その粒子の持っている重さやエネルギーを測定しようとする方法です。これは最初イオンの測定に用いられました。 質量分析装置では、このTOF装置が出てきた時に驚きを持って眺められました。それまで重たい電磁石の間を イオンを通すことで質量を測定していましたが、何もない空間を通すだけで同じ測定が出来るようになりましたので、 驚きを持って迎えられました。最近になって、オシロスコープを使ってこの飛行時間を測定できるようになり、 nsecやもっと短い時間でもオシロスコープの値段によっては測定できるため、電子の飛行時間測定も出来る ようになり、TOFは手軽な分析装置として作られるようになりました。所が、電子の場合、やはり測定できる のはナノ秒近辺と言うことで、数ボルトからせいぜいで100V以下の低い加速電圧のもとで実験する必要がある ことから、実験テクニックが難しいとして、信頼が出来ないという場合が多く見られるようにもなりました。 そこで救世主として現れたのが、磁気ボトルと言う方法です。磁気ボトルとTOFを組み合わせますと、実験上の いろいろな不都合が解消されることが分かって来ました。磁気ボトルは磁気ミラーにも通じ、プラズマの 閉じ込めなどにも使われている技術と同じ原理です。又、加速器などでの電子ビームの輸送に用いられている 技術や、走査電子顕微鏡SEMでの二次電子の輸送にも使われています。

TOF(Time Of Fright)と磁気ボトルによる光電子分光装置

金属に光を当てますと、光電子が放出されます。これはアインシュタインによって説明され、光電効果として 知られています。即ち、光のエネルギーをhfとし、放出される光電子のエネルギーをEkとしますと、次の式が 成り立ちます。
Ek = hf - W。
ここで、Wは仕事関数と呼ばれており、伝導バンドに束縛されている自由電子を 真空中に飛び出させるのに必要とされるエネルギーで、これは物質によって、方位によって異なった値を示します。 この仕事関数をEkの測定から色々な試料について求める装置を作ることがここでの課題です。

放出される光電子は光の当たった試料表面から四方八方へ飛び出します。 電子ビームのエネルギー分布を測定するためには半球フィルタなどの電場フィルタが一般的に用いられます。 電子をいったん加速すれば四方八方に飛び出した電子ビームの進行方向を狭い角度範囲にそろえてやることが 出来ます。しかし、加速すれば仕事関数と言う数ボルト程度を測定したいのに対して例えば1kVに加速したと すれば1001eVと1002eVの差を例えばきちんと測定するだけの精度がエネルギーフィルタに要求されることに なります。これを嫌って電子ビームを狭い角度範囲だけに制限するのに小さい穴の絞りを用いて、電子の加速を 数10V程度までに抑えれば放出された電子の大部分を捨てることになりますから、測定に必要な十分な感度 を得るためには測定に長い時間をかけてデーターを積分するか、明るい光源を用いて電子の放出密度を高める 必要が出て来ます。しかし、放出電子の量を増やすと、空間電荷効果と言う厄介な問題が起きます。熱電子銃 などではフィラメントを加熱して行った時に出てくる熱電子を使うのですが、フィラメントを加熱すると、 先端付近が全体的に高温になりますので、広い範囲から熱電子が放出され、空間電荷効果のために電子の 放出が抑えられます。これを防ぐためにウェネルトと言うマイナスの電圧をかけ小さな穴のあいた電極を フィラメントのすぐ前に置いて、その電極の負の電圧によってフィラメントの先端以外の所から熱電子が 出てくるのを防いで空間電荷効果を抑制しています。それでも、熱電子のエネルギーは1eV位のエネルギー 幅を持ってしまい、出てくる直前の0.1eV位のエネルギー幅より大きく広がってしまいます。

光電子のエネルギー分布を測定する場合には、電子をすぐに高い加速電圧に加速する場合以外ではなるべく 当てる光の強度を落として発生する光電子の量を抑えて空間電荷効果が起こるのを防いでやらなければ 何のための測定かわからなくなってしまいます。少ない電子の発生量でエネルギー分布を測定する ためには、発生した電子の全てを測定に使うことです。電子をあまり加速することなしに全部を使って 分析を行うための有効な方法が磁気ボトル効果を使うことなのです。

図1の左側は試料付近の構造を示しています。試料の下には永久磁石の回路があり、強い磁場が試料に かかっています。永久磁石を含めた試料領域は-10V~-100V間に置かれ、アース電位の陽極に向かって加速 されます。試料から出た電子ビームの軌道を図1の右側に示しました。電子は-2mmから2mmの範囲から0~30°の 角度で放出されています。試料から出るときの電圧は1eVと2eVの2種類についてシミュレーションしてい ますので、二本のビームが絡まったような動きをしています。それぞれのビームはそこでの磁場の強さに応じた らせん運動の半径で上にあがっていきます。ソレノイドコイルは陽極の上から始まっています。装置全体の概略は 図2に示してあります。陽極のすく上から絞りを経て真空内に最初のソレノイドコイルが置いています。 この付近は試料の出し入れや、試料に光を当てるための窓、その他色々のフランジがあり真空容器が太くなって いますので、ソレノイドコイルを真空外に巻こうとすると大きな半径となって一様場を作るのが難しくなります。 永久磁石の磁場がなくならないうちにソレノイドに引き継がないと、ビームは発散してしまいます。ここの ソレノイドの設計は真空チャンパとの絡みでこの装置では一番難しい設計かもしれません。

図1に戻ると、永久磁石の磁場が及ばなくなってソレノイドの磁場の領域に入ると、磁場の値が小さくなります。 図1の右の軌道の図で各ビームがこの磁場が強い磁場から弱い磁場に代わる所で折れ曲がってZ軸に平行 に進んでいるのが分かります。強い磁場から弱い磁場に変化させることでビームの平行化がなされるわけです。

図3に中心軸上の磁場分布を示しています。870Gaussの鋭く強い永久磁石の磁場に続いて130Gaussの真空内 ソレノイドの磁場、続いて40Gauss程度の弱い磁場の領域が約1m続いています。外側ソレノイドは真空チャンパの 外側に巻いていますので直径が大きくなっています。図4に全体の電子軌道を示していますが、真空内ソレノイド から真空外ソレノイドに入る所で磁場が弱くなっていますが、これに対応して、ビームの幅が広がっています。 磁場の強さはソレノイドの端に向かって弱くなっていますが、これに対応してビームは全体としてその領域を 狭めていますが、ソレノイドの磁場がなくなって来るとそれぞれのビームのサイクロトロン半径が大きくなり ごちゃごちゃした軌道になっています。ソレノイドの外に出た所で一気に発散します。この図から、電子の 検出器はかなりソレノイドの奥の方に入れて、ビームが発散するより前に検出する必要がありそうです。

図5は、検出器に到達するまでの時間をプロットしたもので、1eVで放出された光電子と2eVで放出された 光電子が510nsecと490secかかって検出器に到達していることが分かります。どちらの電子も10Vだけ加速 されているのでソレノイド中を通っているときはそれぞれ11eVと12eVのエネルギーを持って飛んでいる ことになります。データーを良く見ると、どちらの電子も時間にして1nsec以下の時間ですが、電子の 放出角度によって異なる時間で検出器に到達していることが分かります。この角度による到達時間が 出来るだけ小さくなるように磁場の強さや加速電圧の強度を実は調節してここまで小さくしているの です。角度による時間差が大きくなればなるほど、エネルギーによる時間差が角度による時間差の 陰に隠れて、エネルギー分解能が取れなくなってしまうからです。ここに示したように、電子の 放出角度によってエネルギー分解能にほとんど差が出ないと言うことこそが磁気ボトルの大きな 特徴です。電場でも同じようにビームの平行化は出来ますが、加速によって平行化したのでは エネルギー分解能が取れなくなります。磁場を使って平行化すると言うところにこそエネルギー 分析装置では大切なことになります。磁気ボトルではエネルギーには何の影響も起こらないのです。

最後に、上で述べた原理に従って北海光電子とFenixが共同で製作した磁気ボトルを利用した仕事関数 測定装置を図6に示します。興味のある方は、info@hpeem.com までどうぞ。

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作成日 2014/05/07

図1. 永久磁石の磁気回路と磁石の上に乗せた試料、試料に-10eVを印加、アース電位の陽極とその外側から始まる ソレノイドコイル。。
図2. 装置全体。長い1mに及ぶソレノイドが陽極の上に続く。
図3. 永久磁石、真空内ソレノイドと真空外ソレノイドの軸上磁場分布。
図4. 試料からソレノイド終端までの光電子の軌道。
図5. 1eVの光電子と2eVの光電子の飛行時間の違い。それぞれの放出エネルギーに対して、8°から 40°までの範囲で放出角度も変化させてある。放出角度の違いによっては飛行時間にあまり差が出ていないが、 放出エネルギーの差は飛行時間のおよそ20nsecの違いとしてはっきり識別されている。なお、ビームの 加速電圧は10Vとして計算している。
図6. 北海光電子(株)とFenix(株)が共同で製作した磁気ボトル利用のTime Of Flight (TOF)仕事関数測定装置。