4極子の一様電場による偏向場生成
図1に4極子で電場を作る場合を示しています。今、簡単のために電極と電極の間のギャップ(δθ)はほとんど
ない場合を示しています。このギャップは電極間での放電を防ぐためにある程度は開けなければなりま
せんが、電場偏向器に与える電圧が数100V程度であれば1mmよりも小さいギャップで十分です。ギャッ
プが大きい場合は電極の側面も中心付近の電場に影響を持つようになります。
さて、いま左右の電極に電圧-V1とV1を与え、上下の電極電圧はアース電位とします。このときに作ら
れる電場のポテンシャルは図2の式のように与えられます。K0, K1, K2, ...などはポテンシャルを
フーリエ展開した時の各周波数成分になっています。すなわち、K0は、定数項ですから加速電圧に
変化を与える成分となります。K1が今問題にしている一様場の成分でこれは角度θに比例します。
次のK2が4極子成分、すなわち非点の成分になります。
その下のK0, K1, K2...などが各成分の大きさを表します。ここで、図2の式には、電圧としてV, V2,
Vxという3種類が使われていますが、図1との対応は
V1(図1) = Vx(図2), V1(図2)=0, V2(図2)=0
で考えてください。今は一様場だけを考えていますが、図2の式は非点補正の4極場の場合のことも
考えて作られています。ここでは、図2の4極場の成分は0として話を進めます。
いま、図2のV1, V2はともに零ですから、K0とK2は自動的に零になります。そこで、K3が零になるよ
うにθ0を選べばよいことになります。これはすぐわかるようにθ0=60°になります。図1はこの場合
すなわち2θ0=120°の広がりを持った電極が構成されおり、そのポテンシャルはほとんど平行な線
になっています。つまり大体一様場が形成されていることが分かります。
ここまでは簡単にわかるわけですが、問題はこれからです。電子ビームを偏向させるにはどの方向に
も偏向できなければなりません。偏向器が左右だけの場合は、電子ビームは左右の方向にしか偏向さ
れません。上下の方向にも偏向することができれば、左右の偏向量と、上下の偏向量の割合をいろい
ろ変えれば、そのベクトル和の方向にビームは偏向します。しかし、電極が120°の広がりを持つ必
要があることから、X偏向器とY偏向器を同一面上に置くことができません。そこで、いろいろな工夫
がこれまでになされてきたわけで、前のページの表にあったいろいろな偏向器が提案されてきたわけ
です。
ビームを平行移動させたり、光軸上でビームを傾斜させたりするためには、二段偏向といって、
偏向器を二個使う必要があります。X-偏向器とY-偏向器は別々に置かなければなりませんから、
二段偏向の配列は図3のようになってしまいます。二段偏向器の二段は離して置いた方が偏向感
度は高くなりますが、X1, Y1, X2, Y2と配置するのではなく、図3二示したようにX1, X2, Y1,
Y2と配置しなければならない理由は、極と極のつなぎ目部分に生ずる4極場を少なくするため
です。X1とY1を近づけて配置しますと、その境界には非点補正に使う4極場が発生してしまい
ます。これを避けるために、X偏向器とY偏向器の間にはシールドを入れます。このように、Xと
Yの偏向器を別々に置こうとすると図3二示したように偏向器全体が長くなって場所をとります。
それで、次のページ以降に示しますようないろいろな工夫が施され、同じ面内にX,Y両偏向器が
置かれるようになったのです。
同じ面内にX偏向器とY偏向器を置くためのいろいろな工夫について示す前に、偏向器による
ビームの平行移動Shiftと傾斜照明Tiltを見てみましょう。ShiftとTiltを二段の偏向器で行う
場合の軌道は図4二示してあります。ビームのシフトは偏向器1と偏向器2に同じ大きさで逆向
きの電場を与えれば実現します。一方、チルトは、偏向器2に与える電場の強さをこれより強
くすれば実現します。ビームを光軸まで戻すには、その位置が偏向器1と2の間の距離と同じだ
け離れた位置でビームを光軸に戻す場合は二倍の大きさにすれば良いのです。
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図1.静電4極子と各極の角度 |
図2. 多極子場の生成 |
図3. 4極静電偏向器 |
図4. 静電偏向器によるビームのシフトとチルト |
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