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収差補正 .(pdf).
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EOS津野の
電子光学講座
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6極子による球面収差補正は、今や収差補正と言えばこのことを指していると言ってもよいほど 普及した収差補正法となりました。2006年に札幌で開かれた国際顕微鏡学会では、収差補正の学会 ではないかと思うほどたくさんの収差補正装置を使ってなされた研究が発表されましたが、そのほ とんどが6極子による球面収差補正に関するものでした。SEMやFIBに使われる4-8極子についての発表は、 その開発者の招待講演が一件のみであったのと大きな違いを見せました。ここでは、6極補正子の補正 の原理を説明します。沢山の文献があっても、その原理は式で展開されても 理解している人が少ないこともあって、言葉で書かれたものがないからです。

第4章・6極子とラウンドレンズの組み合わせによる球面収差係数Csの補正

6極子で何が出来るか

6極子の偏向作用 左の図は、6極子を示しています。6極子の特徴は、+極の向かい側は-極、-極の向かい側は +極になっていることです。これは、今までに説明してきた4-8極子の場合と異なっています。 4極子も、8極子でも向かい側は同極性になっています。反対側が同極性の時は、中心軸上では 場の強さは零になって、軸から遠ざかるにつれて電場なり磁場なりが出てきますが、反対側 が同極性の場合は、中心軸上にも場があることになります。そうしますと、中心軸上を 飛んでいる電子の方向を曲げる作用が働きます。電場の場合は、電子がマイナスのチャージ を持っていますからプラスの極にひかれます。磁場の場合は、ローレンツ力と言う力が働いて、 電子は磁場の方向と垂直な面内で円軌道を描きます。ここでのキーポイントは、中心軸を はさんで上側でも下側でも同じ向きに偏向が起こるという点です。中心から外側に向かう方向とか、 中心軸に向かう方向に拡がったりすぼまったりする場合は、レンズ作用ですが、偏向作用と言うのは 中心軸と関係なく、電場や磁場の方向で決まる向きに曲がるわけです。

6極子の一様な偏向 この偏向作用は、電子が外側に偏向される極では、偏向されるにつれてより場の強い外 側に近づくので、その偏向作用がさらに大きくなり、より外側に偏向されます。 逆に、中心軸に近づくように偏向される極では、偏向が進むにつれて場が弱くなりますから その偏向作用は小さくなり、偏向量は次第に小さくなっていきます。 ここで重要なことは、一定量の偏向作用のほかに場の強さが外側ほど大きいということによって 加わった付加的な偏向量は、いずれの場合も軸から離れる方向に向かっていると言うことです。 つまり、付加的なビームの偏向は軸対称で、しかも外向きなのです。外向きに軸対称に拡がる ビームは凹レンズ作用です。凹レンズの作る収差はマイナスの符号を持っています。 つまり、負の球面収差が付加されたのです。

Creweの取り組み

Crewの6極子 Creweは、始め4-8極子による補正を研究していましたが、6極子に変更しました。 彼のSTEMで実験も進めました。ただ、後半では、シミュレーションが多くなり、 実験から遠ざかって行ったようです。

Crewの方法では、6極子の中間に1個のField Lensを入れ、ビームは、6極子の前後で反転するように 角度をもって入射させています。Fieldレンズの働きは、この軌道図からはわかりません。 中心を通るビームに対してFieldレンズは何の作用も行わないからです。Fieldレンズは、 軸外ビームに作用し、たぶん、軸外ビームが6極子を通るときにその軸上を通るように調整されて いるものと思われます。
しかし、この方法では丸いビームが出てこず、 六極子が作る二次収差によって三角形にゆがんでしまいます。六極補正子は、軸対称な三次の 開口収差も作りますが、それよりずっと大きな二次収差を作るわけです。この二次収差を 出さないようにするのが、六極補正子によって球面収差補正を行うための 要件となるわけです。

Beck, Creweの文献

A hexapole spherical aberration corrector, V.D.Beck, Optik 53 (1979) 241-255.
A sextupole system for the correction of spherical aberration,
A.V. Crewe, D. Kopf, Optik 55 (1980) 1-10.
Limitation of sextupole correctors, A.V. Crewe, D.Kopf, Optik 56 (1980) 391-399.
The sextupole corrector・1. Algebraic calculations, A.V. Crewe, Optik 69 (1984) 24-29.
The wave electron optical properties of a magnetic round lens corrected with sextupoles,
X. Jiye, Z. Shao, A.V.Crewe. Optik 70 (1985) 37-42.
A study on multipole systems as correctors, Z. Shao, Optik 75 (1987) 152-157.
Correction of spherical aberration in the transmission electron microscope,
Z. Shao, Optik 80 (1988) 61-75.
On the fifth order aberration in a sextupole corrected probe forming system, Z. Shao, Rev. Sci. Instrum. 59 (1988) 2429-2437.

Rose, Haiderの六極補正子

Rose方式の六極補正子の配列 Roseは、Creweが6極子を始めとき丁度シカゴに滞在し、 同じ6極子の理論的な仕事に加わりました。なぜCrewが6極子による球面収差補正に成功せず、 その成果はRoseによって実を結んだのかと言うその原因となったものは、トランスファー ダブレットと呼ばれるラウンドレンズの働きを加えたことでした。

トランスファーダブレットと言うのは、二個のラウンドレンズを組み合わせたもので、Roseの六極補正子では これが二組入っています。ひと組は対物レンズの中に組み込まれています。図ではTL1, TL2 と書かれたものです。もうひと組は、二つの六極子の間に入ります。TL3, TL4です。この後の方のトランス ファーダブレットは、電子の軌道を反転させることで、第一の六極子が作る二次収差と 第二の六極子が作る二次収差をキャンセルさせます。六極子は、軸対称場、一様場、四極子場 などのようなレンズ作用がなく、収差を作るだけの働きをします。前に説明した八極場も同じです。 収差を作るだけの多極子場を使うときには、他のレンズや多極子によってその収差を働かせる 場所の電子軌道を用意してやる必要があるわけです。
Rose式六極補正子の電子軌道 左の電子軌道の図は、上の図の場合の電子軌道シミュレーションの結果を示しています。 上の図は像を示す軌道で、Axial rayと呼ばれています。下の図は、電子回折像が現れる 場所を示した図と言うこともできますし、像を考える場合は、軸外軌道つまり、像の 外側の軌道の図と考えることができます。Field rayと呼ばれています。Field rayは、 軸外軌道ですから、球面収差のような軸上収差補正のときには関係のない軌道ですので、 収差補正器、つまり六極補正子ではその中心を通して、六極補正子で加えられる場が 軸外軌道には影響を与えないようにします。つまり、六極子を通るときに、軸上軌道 Axial rayは外側を通って、Field rayは中心軸を通るようにするわけです。これが 先に説明した第一の六極子と第二の六極子で軌道を逆転させることと共にトランス ファーダブレットの重要な機能なわけです。
六極子場は先に4, 8極子場のところで説明したと同じように、12極子を用いて作る ことができます。

6極補正子で重要な点は、六極子が軸対称な開口収差つまり球面収差を作るという点です。 軸対称な収差を軸対称ではない電子軌道が作るという点が大切なのです。シェルツァーの 定理は、軸対称なレンズ場によっては負の収差を作ることが出来ないことが謳われています。 負の収差を軸対称な場で作るには、ミラーを使う必要があります。穴のあいたレンズでは、 場の分布が軸上、すなわち中心部ではどうしても極のある周辺より強くすることができません。 このために負の収差が作れないのですが、多極子を使うことでこの困難を乗り越えています。 その方法として、Wienコレクターでは軸対称でない場を使って、軸対称な電子軌道を実現し、 軸対称な軌道は、軸対称な収差を作りました。六極補正子の場合は、軌道も軸対称ではない のですが、収差だけが軸対称になりました。 六極補正子の最大の欠点は、これが負の球面収差だけを作って、色収差を作らないという点です。 軸対称な色収差を作ることが出来ないのです。 軸対称な負の色収差はミラーとウィーンコレクタによって作ることができますが、いずれも 電場を必要とするため、高加速電圧で使われるTEMやSTEMには向きません。負の色収差は、 軸対称ではない4-8極子の作る収差で実現されています。 六極補正子が実現した時、六極補正子は軸対称収差を作るのでTEMなどの直接写像電子顕微鏡に 使えるが、4-8極子で作る球面収差は、STEMやSEMなどのスキャン系の補正子としてしか使えない といわれました。しかし、TEMの色収差補正については、4極子が使われ始めています。

Rose, Haiderの取り組みの文献

Correction of aperture aberrations in magnetic systems with threefold symmetry,
H. Rose, Nucl. Instrum. Methods 187 (1981) 187-199.
Design and test of an electric and magnetic dodecapole lens,
M. Haider, W. Bernhardt, H. Rose, Optik 63 (1982)9-23.
Outline of a spherically corrected semiaplanatic medium-voltage transmission electron microscope,
H. Rose, Optik 85 (1990) 19-24.
Correction of aberrations, a promising means for improving the spatial and energy resolution of energy-filtering electron microscopes,
H. Rose, Ultramicroscopy 56 (1994) 11-25.
Correction of the spherical aberration of a 200 kV TEM by means of a Hexapole-corrector,
M. Haider, G. Braunshausen, E. Schwan, Optik 99 (1995) 167-179.
Progress in Aberration-Corrected High-Resolution Transmission Electron Microscopy Using Hardware Aberration Correction,
M. Lentzen, Microsc. Microanal. 12 (2006) 191-205.


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