球面収差とは
図1-1.球面収差とは
マグネット内の磁場分布
図1-2. マグネット内の磁場分布
レンズの磁場分布
図1-3. レンズの磁場分布
色収差のりくつ>
図1-4. 色収差のりくつ
6. 収差補正 
6.1.球面収差と色収差
6.2.シェルツァーの前提
6.3. 4-8極子によるCs補正
6.4.電場・磁場4極子によるCc補正
6.5.減速電場4極子のCc補正
6.6.HexapoleによるCs補正
6.7.Wien Correctorによる補正
6.8.MirrorによるCs、Cc補正
*********************************** 目次(全体)EOS津野の電子光学
0.最初のページ
1.電子レンズの光学
2. 透過電子顕微鏡TEM
3.走査電子顕微鏡SEM
4.光電子顕微鏡PEEM
5.偏向と非点補正
6.収差補正 
6.1.球面収差と色収差
7.エネルギー・アナライザ
8.Wien Filter
9.その他のプロジェクト
9.1. スピン回転器
10.ヨーロッパ旅行
10.1. Czech訪問
11.著者のページ

EOS津野
電子光学講座

コンタクト eostsuno@yahoo.co.jp
ここでは収差補正法のいろいろについて解説します。普通は、式の展開をフォローして 勉強するのですが、私の方法は、式がわからない人のために、シミュレーションと自分で いろいろ考えることの二つの方法で問題を解決していくものです。
 


光のレンズと電子のレンズの違い



球面収差は図1-1に示すように、物体の一点から出たビームがレンズで収束した時に 完全に一点に集まらずにある広がりを持つことを言います。この時、図1-1に示す ように、大きな角度で出たビームが小さな角度で出たビームよりも早く収束する とき正の球面収差と言います。

ところで、光に対する軸対称なレンズには、凸レンズも凹レンズもあります。でも、 電子には凸レンズしかありません。このことはよく知られています。しかし、どうして 電子のレンズでは凹レンズが作れないのかという理由はあまり考えられていません。 当たり前のこととして受け入れられているようです。 正確に言うと、軸対称な場を用いた電子レンズでは、最終的に凸レンズとなる条件の もとで、負の球面収差を作る条件がないと言わなければなりません。軸対称とは回転対称 とも言いますが、ガラスのレンズでよく見かけるように丸いレンズのことです。電子レンズ でも凹レンズはありますが、後で示しますように、電子は直接目で見ることが出来ないため、 どうしても凸レンズにして電子ビームを蛍光塗料に当てて光に変換してからでないと見えない のです。

電子レンズで負の球面収差を持つ凸レンズがない理由は、光のレンズは透明であるため光が レンズの中を通ることが出来るのに対して、電子レンズは電子に対して不透明な金属材料で 作られているのでその通り道に穴を開けなければならないことによると言うことができます。

光のミラーと電子ミラーの共通性

このことは、鏡について考えてみるとうなずけます。鏡は光を反射しますから、透明で はありません。実は、電子に対しても鏡の作用をするものがあります。電子に対する 鏡の場合も鏡は光を反射しますから鏡に穴もあけなくても使うことができます。そして、 光に対して鏡が負の球面収差の場合も収束できるのと同じように、電子のミラーも負の 球面収差の条件でビームを収束させることが出来ます。

このように考えますと、電子に対する軸対称な場を持つレンズが負の球面収差を持つ 凸レンズになれない理由が電子レンズが透明でないことによって孔を空けなければ ならないことによるのだという考えがますます本当らしく見えてきます。

電磁石の場の分布

ここで、普通の物理の実験などで使われている電磁石の磁場分布を見てみましょう。 というのは、電子に対して使うレンズで最も一般的なのが電磁石だからです。ですから、 電磁石を知ることが電子レンズを知るためには必要なのです。それともう一つの理由は 最初から電場で考えると難しくなることもあります。磁場では、磁極から磁極へ向かう方向 であるZ軸では、磁極表面の場が最も強く、磁極の中心に向かうにつれて弱くなります。 これは直感的に理解できますね。一方、磁極の面に沿った方向、すなわちX,Y方向では、 ギャップ中心の磁場が最も強く、中心から離れるにつれて弱くなります。これもなんと なくそういわれると正しいような気がするかもしれませんが、はっきりとはわからない かもしれません。数学的にはLaplase方程式からの要請で、Z方向の分布とX,Y方向への 分布はいつも逆になっています。この辺は、電磁気学の本に、式で書いて説明してあり ます。

レンズの場の分布

しかしながら、電子を通すためいったんポールピースに穴を開けると、事情は一変します。 もはや中心軸上で場は最大ではなくなるのです。なぜなら、穴のために磁極は中心軸上には 存在しないからです。場の強さは中心軸上でもっとも弱く、軸から離れるにつれて強くなり ます。
それでは次に、磁場の強さとレンズ作用の関係について考えてみましょう。上の説明から、 中心軸付近は磁場の強さが弱いですから、そこを通るビームに対するレンズ作用は弱く なります。一方、穴の周辺は中心部より磁場が強いですから、周辺を通るビームに対する レンズ作用は強くなります。したがって、周辺のビームの方が中心よりも早く収束します。 この状態が正の収差係数と定義されています。

この考え方が正しいとしますと、穴のないレンズが存在すれば、負の収差をもつことが 期待されます。ミラーは、片側(ミラーの面)でこのことが実現していますので、負の収差 を作ることが出来るわけです。このように、電子レンズは電子をその中に通すために孔を 必要とし、この穴が開いていることがレンズの磁場分布を決め、その磁場分布が正の球面 収差の原因となりました。

色収差

色収差はレンズ作用がエネルギーの高いビームに対してよりもエネルギーの低いビームに 対して強く働くということによって生じます。凸レンズは正、凹レンズは負の色収差を作る ことになります。これは、図1-4の上の図を見てもらえばすぐにわかります。凹レンズの 場合は、赤線と青線を左の方に延長してもらいますと、中心軸と交わる位置が、青線の ほうが左側(すなわち早く収束するということ)、赤線は右側(遅く収束する)になります。 エネルギーの高い青線の方がエネルギーの低い赤線よりも早く収束しますから、収差係数 は負ということになります。

次は「シェルツァーの前提」

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作成日 2012/02/02  改定 2018/05/19, 2019/07/08