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EOS津野
電子光学講座
Contact: eostsyno@yahoo.co.jp
チェコには、この国の第2の都市Brnoの科学技術装置研究所に電子光学関係の部門を 持った科学技術装置の研究所があり、そこに勤めているDr. Lencova氏と付き合いが あった関係で、ソ連の束縛から自由になった前後の合計4回、イギリス駐在時代に 一度、日本から3度訪問しています。一回目は、プラハの空港に降りてから、訪問 先の研究所長が乗る車に便乗して、チェコ第2の都市Brnoに向かいました。2回目以降は、 日本からの訪問となりましたので、チェコだけの訪問の場合は、Wienで飛行機を降り、 汽車でBrnoに入りました。最後の4回目は、一橋大学のC先生にヨーロッパ内の電子 光学関係の研究機関をご紹介する旅だったので、イギリスからPragueに入って、 汽車でBrnoに向かいました。第1回目は、共産党支配時代でありましたが、2~4回 目は解放後の訪問でした。
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1998年7月チェコ Brno訪問


チェコ共和国のBrnoにあるInstitute of Scientific Instrumentsは電子顕微鏡 を初めとして、NMRなど日本電子の営業品目にほぼ対応する理化学機械の研究所です。 この研究所の主催でRecent Trends in Charged Particle Optics and Surface Physics Instrumentationというセミナーが2年毎に開催されていました。この セミナーの元々の起こりはイギリスのアストン大学professor Mulveyがこの 研究所の指導に毎年滞在している間に開かれていた所内研究発表会が発展して インターナショナルな会議になったものだそうです。会に番号をつけるように なってから今回で6回目となり、前回5回目からは予稿集も発行されるように なったそうです。現在の会議の性格としては、ドイツの電子光学関係及び 表面分析装置関係の大学研究室とこのBrnoの同様の研究をしているグループが 主体で、それにヨーロッパのほかの国と日本から数人が招待されるという構成 になっているそうです。会議はお互いをよく知り又話し合いを円滑に行うために 40人程度に制限されているそうです。私は4年前の第4回に初めて参加して以来 今回2度目の参加でした。4年前のときは早稲田大学の市ノ川先生も参加されおられ ましたが、今回、日本人は私一人でした。会議のタイトルから分かるように電子 光学と表面分析装置の会議ではありますが、主体が電子光学にシフトしつつあり、 表面分析関係の割合が減少し続けているとのことでした。ドイツの大学からは ダルムスタット工科大学のProfessor Roseが学生7人を引き連れて参加して おられたのが最も大きなグループを形成し、その外チュービンゲン大学、 クラウスタル大学からの参加があったそうです。チェコの大学としては地元の マサリク大学からの参加があったそうです。 会議のスタイルは発表者と座長を兼任したような、モデレーターと呼ばれる人が 発表をし、質問を受け付け話を進めていく形式を取っていました。又、学生や 若手研究者はポスターを会議室の外の休憩室に貼りだし、モデレーターが司会を しながらこれらのポスターについての短い説明の後に質問を受け付けて会議を 進めていました。このような形式の会議でモデレーターを勤めるのは大きな負担で、 英語で一時間を維持することは大変でありました。ただ、多くの人は既に顔見知り であったので何とかこなすことが出来たように思います。 会議で発表されたタイトルからいくつかを選んで以下に記します。 Ultimate resolution: What are the needs for future microscope? H. Rose ドイツ政府の肝いりで高空間、高エネルギー分解能TEMの製作が動き出していますが、 この発表はその装置の仕様をどのように決めたかという話でした。装置は、サブ オングストローム, サブエレクトロンボルトのEFTEM(エネルギーフィルターTEM)で した。スペックはd<0.07nm, dE=0.2eVでCsおよびこま収差補正を行った200-300kV のエネルギーフィルター付きTEMということになります。装置の構成は200kVの FETEMにモノクロメータ、Csコレクター、マンドリンフィルタをつけた構成と なっていました。

Roseの説明を聞く限り、高空間分解能を得るために10nAの電流を持った0.2eV のエネルギー幅の光源が必要であるということは理解でき、又、そのためには 電子銃を出たビームが試料にあたるまでベルシェ効果によるエネルギーの広がり を避けるため一度も点状のクロスオーバーを作っていけないという考え方も理解 できました。しかし、エネルギー分析装置としては、スペクトルを取るのに0.2eV のエネルギー分解能で良いこと、エネルギーロスイメージを取る場合には10eV 程度のエネルギー分解能で良いということなどは、装置の構成が大掛かりである 割には理解しにくいスペックでした。すべての仕様が0.07nmの高空間分解能 イメージを取るために考えられており、それにマンドリンフィルタをくっつけた 仕様と思われました。

Outline of an electron monochromator with small Boersch effect
F. Kahl and H. Rose
実際のモノクロメータは学生のKahlが現在計算中で、まだ具体的な形状は決まって いない様でした。まずSCOFF(Sharp Cut Off Fringing Field)近似で最適条件を探し 、その条件についてフリンジ場を計算し、形状の補正をしていくという段取りで すが、この方法はわれわれもオメガフィルタを開発するときにまず行ってみましたが 、SCOFF近似で求めた形状は実際にフリンジ場を入れた計算のときにはまったく 使い物にならず、改めてフリンジ場を考慮した最適化のソフトウェアを構築 しなければならなかったのでこのアプローチでは旅路はるかだと思わざるを えませんでした。

モノクロメータは全長10cm程度で、一枚の電極によって入射ビームの条件を調整 する他は静電型のオメガフィルタからなっていました。静電型にしたのは、 モノクロメータ全体をFEGの引き出し電極の直下におき、約3kVの引き出し電圧の 基でエネルギー選択を行ってしまいエネルギー選択をした電子だけを加速電極を 通して加速する方式を取るものでした。このため、モノクロメータは全体として 電子銃の高圧上、超高真空上に置かれることになります。モノクロメータの入射 窓面には陰極のクロスオーバーがそのまま使われています。ただ、瞳面に陰極の 像を一致させるために一枚の電極をモノクロメータの手前におかなければなら ないようでした。ベルシェ効果によるエネルギーの広がりを避けるため、すべての フォーカスをラインフォーカスにしていました。そこで、エネルギーフォーカスを 起こさせるx面内では4回、これと直交するy面内では2回のフォーカスを行わせ ています。(通常のオメガフィルタではLanio,Rose型では点フォーカスで両方向 3回フォーカス、JEOLで製品化したWollnik型は部分的にラインフォーカスとなる x方向3回、y方向2回のフォーカス)又、エネルギー分散軌道も中心面対称を実現 してほとんどすべての2次収差をゼロにしています。このため、スリットは第4 マグネットの後ではなく、第2マグネットの後すなわち中心面に置かれています。 エネルギーロスビームを含めた全ビームが中心面対称となります。このような 複雑なフォーカスを行うフィルタをRoseとDegenhardtは以前に提案していましたが、 その時のフィルタは磁界型で少なくとも2組の4極子レンズを必要としていました。 しかし、今回の構想では4極子レンズは一切使わず、上に述べた複雑な軌道を 電極形状の工夫によって実現するとしていました。このため、分散面であるxz面 で見ると単純なオメガフィルタの形状になりますが、xy面の電極形状はきわめて 複雑な曲面をなしていました。トロイダル型と呼ばれるフィルタに分類される形状 ですが、3次元的に複雑にうねった形状となるようです。分散は35um/eVを予定して いました。これは加速電圧が3kVと小さいことを考えると100kV換算で1um/eV程度で 特に大きいわけではありませんが、フィルタの全長を100 mm程度にすることを 考えると、約2倍の向上ですから200kVで1um/eVと同程度の分散となります。 エネルギー分散面上ではスリットの幅は4.5um程度を予定しており、ガウス像の 大きさは(ビームの元々の大きさ)が50nm、フィルタの収差によるビームの広がり が32nm程度なので両者ともスリット幅に比べて十分小さくなります。収差を含んだ ビームの直径は60nm程度になるようでした。

このモノクロメータはまさにRoseのこれまでのオメガフィルタ研究の集大成の ようなもので芸術品とでもいえばよいようなものでした。このようなフィルタを 実現できるのはRoseの弟子を置いて他には考えられないと思いました。計算だけ でも3年程度は必要であり、その加工機械の選定、精度の測定、精度の狂いによる 影響の検討などに更に多大の時間を必要とするものと想像されます。

Quadrupole projector system with variable magnification for energ-filtering transmission electron microscopy

V. Gerheim and H. Rose

エネルギーフィルタTEMのフィルタ後段の投影レンズ系は10~100倍程度の固定倍率 で使われる事が普通であった様です。JEOLの2010FEFではおよそ200倍のほぼ固定 で使われています。これに対して我々は投影レンズの倍率を可変にして、フィルタ の収差の影響を最も受け難い条件で観察すべきことを既に示し、更にこれに 寄ればZeissの2つめの特許を逃れる事が出来る事を示しましたが、Roseのグループ でもようやく、3段レンズ系にして倍率を可変し、オプチマム条件を選ぶべきで ある事を発表しました。オメガフィルタについては我々は後発ですべてRoseらの アイデアの真似に終わってきたのですが、この発表を聞いて、初めてRoseらに 先んじた点が一つだけではあるが、出来た事を実感した次第です。

しかし、Roseらの場合は、表題からもわかるように更に話を進めて、投影レンズ系 を4極子レンズで構成しています。その利点は、スペクトル観察の場合にライン フォーカス、像のときに点フォーカスをそれぞれ選択できる事があります。また、 像回転がないという利点もあります。しかしこれらの利点程度でわざわざ4極子 レンズを使った投影レンズが魅力あるかどうか疑問です。

以下、この他の話題について簡単に説明します。

周知のようにチェコのBrnoの研究所は有名なProfessor AutrataのYAG単結晶の 生産現場です。Autrataは研究所の所長であり、これまでのように単結晶の育成 に自分で励む事は出来なくなってしまったし、設備もなくなってしまい、現在 ではこれを専門に製造販売する会社が作られてそこで扱っているそうです。 研究所の人たちはその会社から単結晶を分けてもらっていろいろな実験を行って います。今回目立った発表はこのYAG結晶の低真空SEMへの応用、反射電子検出器 として、ポールピースの面に平行に置いたときと、アニュラー型に置いた場合 に像の違いを測定していた人もいました。

仙台で開かれたEM学会に展示していたDelong CompanyのLow Voltage TEMは ここでも展示され、ちゃんと像を出してくれていました。Brnoの人たちはLow Voltageが得意で、LVSEM, LVTEM, LEEM Scanning LEEM等数々のLow Voltage電子 顕微鏡を研究しています。Roseの所ではLEEMやミラーを使った収差補正装置用の 磁界型ビームセパレータを提案していますが、今回は実際に作ったビーム セパレータのSEMへの取り付け実験が行われていました。実験は初期段階では ありますが、ビームセパレータによってSEM像が特別劣化する事はありません でした。ビームセパレータはビームの進む方向を分ける事だけではなく、これを 通過する事によって新たな収差が付加されないという事が必要で、その為に対称 条件の導入など複雑なビーム経路を作っていました。

もう一つRoseの研究室からの特筆すべき報告は電子回折像のシミュレーション が報告されたのですが、そこでエネルギーロス電子の影響が計算に取り込まれた 事です。これは今までできなかった事で、シミュレーション法に新しい方向を 与える事になろうとおもわれます。

なお、次回は2000年でありますが、EUREMがこの年には同じ主催者Frank, Mullerrova らによってBRNOで開催される事が決まっている事から、EUREMのサテライト ミーティングとして開催される事に決まった様です。

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作成日 2019/03/01

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目次(全体)EOS津野の電子光学
1.最初のページ
2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
4.走査電子顕微鏡SEM
5.光電子顕微鏡PEEM
6.エネルギー・アナライザ
7.Wien Filter
8.収差補正
9. スピン回転器
10.著者のページ


図1. チェコの首都プラハの地図。

図2. チェコ共和国全体の地図。

図3.Czech第2の都市、Brnoの町。

図4. チェコの首都プラハの町。

図5. Czechの首都、プラハの町。

図6. 湖に面した保養地、スカルスキー・ドボー。

図7. 湖に面した保養地、スカルスキー・ドボー。

図8. 湖に面した保養地、スカルスキー・ドボー1998年6月訪問。

図9. 湖に面した保養地、スカルスキー・ドボー1998年6月訪問。

図10. 湖に面した保養地、スカルスキー・ドボー1998年6月訪問。

図11. 湖に面した保養地、スカルスキー・ドボー1998年6月訪問。