EOS津野の電子光学講座
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エネルギーフィルターを電子顕微鏡に乗せて、スリットによって選択した範囲の エネルギーからなる像を作る試みは、1960年代に始まっていました。最初は フランスのキャスターンとヘンリーによる静電ミラーを二個の磁場プリズム で挟んだいわゆるプリズム-ミラー-プリズムと呼ばれる方式でした。この フィルターは、カナダのオッテンスメーヤーによって巧妙に透過電子顕微鏡 と組み合わされ、やがてZeissから発売されると生物系の装置として人気を 博しました。この装置はミラーを使うことから、当時ツールーズで計画され ていた超高圧電子顕微鏡に搭載するため、ミラーを磁場偏向器に置き換えた いわゆるオメガフィルタが開発されました。ところが、このオメガフィルタを 開発していく過程で、キャスターン・ヘンリー型のフィルタでは自動的に 満たされていたフィルタの作る二次収差をキャンセルするメカニズムが磁場 型フィルタでは自動的には満たされず、大きな収差を発生してしまいました。 しかし、このことがきっかけで、イメージングエネルギーフィルタとして 必要な二次収差の消滅条件がどういうものであるかが理解され、その後の フィルタ開発に大きく貢献しました。
--a HREF="http://www.geocities.jp/eostsuno/author/eostsubjects.html"--> http://cpoptics. masa-mune.jp/index.html目次
レンズ開発初期

オメガフィルタ

1. オメガフィルタの歴史的背景

最初のオメガフィルタはPMP(プリズム・ミラー・プリズム)フィルタの 静電ミラーをセクター磁石で置き換える目的で始められました。それは、 フランスのツールーズで計画されていた超高圧電子顕微鏡に搭載するため でした。もちろん、最初の実験は超高圧電子顕微鏡で行われたわけではなく、 100kVの普通のTEMで制作されました。Senoussi[1]によって作られたフィルタ は図1に示すように上下の中心に対して対称な形をしていませんでした。この ことが結局は、PMPフィルタのように上下対称な軌道をフォーカスさせること によって二次の幾何収差がキャンセルされることが明らかとなったわけです。 PMPフィルタでは自動的に満たされていたため、特に認識されることのなかった ことが、オメガフィルタでは対称でない軌道を取ることも出来たことから、収差 キャンセルが実現せず、どうしてPMPフィルタのようにならないのかを考えること で二次収差キャンセルの条件が明らかになったわけです。

その後、フランスではツールーズの超高圧電子顕微鏡にZanchi[2]の設計になる オメガフィルタが搭載され、ドイツではRose[3]とWollnik[4]によって二つの異なる 型のフィルタが提案されました。Roseの提案はその後弟子のLanio[5]によって設計 されたフィルタがZeissより商品化[6]されLanioの分類からA型、Wollnikの提案は、 JEOL(日本電子)[7]によって商品化されB型と分類されました。実はJEOLも最初は A型でしたが、両者でオメガフィルタ付き200kVTEM発売されると、ほとんどの客が JEOLを購入したため、Zeissは、日本電子に対して、特許の使用不許可の通告を出して きました。これに対して、日本電子はオメガフィルタをWollnok型に切り替え、Zeiss 特許を避けて販売を継続し、その結果Zeissは200kV-TEMからの撤退を余儀なくされ ました。これは、RoseとWollnikと言うドイツの荷電粒子光学を代表する二人の代理 戦争とでもいえるものでありましたが、結局、オメガフィルタの優劣を争ったオメガ フィルタの代理戦争と言うよりは、200kVTEMで実績のある日本電電子が200kVTEMの 新参者であるZeissより安心して購入できるということに過ぎなかったのですが、 WollnikのオメガフィルタのRoseのオメガフィルタに対する勝利という形で終わり、 Zeissはオメガフィルタ搭載のTEM市場ばかりではなく、TEM市場から撤退し、電子 顕微鏡に関しては、SEM専門の会社になってしまいました。

2. オメガフィルタ搭載の200kV-TEM --オメガフィルタの基本光学系--


Ωフィルタは最初と最後の磁石に対して途中の磁石の極性が反転し、符号を含めた ビームの全偏向角が零となりますが、全磁石の極性を同一として、偏向角の合計が 360°となるαフィルタも1984年に提案されています[9]。図2にアルファフィルタ 型の一例を示します。アルファ型を横に引き延ばした形のフィルタが日立によって 商品化され、ガンマフィルタと命名されました[9]。
Ωフィルタは、2つ(Senoussiのオメガフィルタ、α-フィルタ)、3つ(右側の 磁石をY-方向収束のために利用するため、2つに分割した場合)または4つの セクター磁石によって構成されています。図3(a),(b)は、4つの磁石で構成され るオメガフィルタを示しています。電磁石は4個ありますが、光学的には、3つの レンズで構成されています。3つのレンズというのは、フィルタの直前に前方の レンズによるクロスオーバーを形成し、フィルタ内で2つ、その出口で3つ目の クロスオーバーを作り、そこにスリットが挿入されるからです。この様子が図4 (a)に示されています。なぜこのように3つものフォーカスを作らなければなら ないかという理由は、最初のフォーカスで作られた分散が二つ目のフォーカスで キャンセルしてしまうため、もう一度フォーカスをさせて分散を作り直さなければ ならないからです。ただ、残念ながら、図4(a)ではソフトウェアの不具合から、第二 フォーカスで分散が加算され、さらに第三フォーカスでも加算されるように描かれて います。なぜこのように分散を作ったり消したりしなければならないかというと、 それは、像面で分散と二次収差をキャンセルさせることが最も重要だからです。

図4(b)に像面のフィルタ内での伝達の様子が示されています。この場合、前段レンズ の像面が第1マグネットに入ってから出来ています。これを中心面上に結像し、二番目 の像を第4マグネット上に作ります。中心面に対して軌道を対称に作る必要があります。 クロスオーバーで見ると、3回のフォーカスを行う系であり、拡大像で見ると、2回の フォーカスを行う系です。

キャスターン・ヘンリー型ではミラーでクロスオーバーが反転するため、分散軌道は 2回のフォーカスで加算されるため、軌道は単純でしたが、オメガフィルタでは分散 軌道は奇数回でなければなりません。二次の幾何収差をキャンセルさせるためには、 像倍率を1倍にすることも重要です。エネルギーフィルタを組み込んでいながら像には 収差の影響が目立たなくなります。幸い、電子顕微鏡の電子軌道には、像と電子回折 という2つのビーム収束位置があります。分散を生じさせ、スリットでエネルギー範囲 を選択する操作は、この電子回折面を使うのです。 図4(a)では、フィルタの入り口に回折面を持って来ています。この回折面の3回目の フォーカスをフィルタの出口に作るのです。分散は一回目に作られますが、2回目では 逆方向に作られるため、キャンセルしてゼロになります。再び3回目で作られた分散が フィルタの出口に形成されます。Ωフィルタは、イメージングのためのエネルギー フィルタであって、エネルギースペクトルを取るだけのためには、四つものマグネット を持ち、三回もの結像をさせることは何の意味もありません。

3.A-type オメガとB-typeオメガフィルタ



上では、クロスオーバーには分散を作るために奇数回のフォーカスが必要なことを 述べました。しかし、分散を生ずるのはX-方向即ち、磁極面と平行な面だけです。 これと垂直なY-方向即ち磁場方向には奇数回のフォーカスは求められていません。 この点に着目したのがWollnikで、X-方向三回、Y-方向二回のフォーカスをさせる べきだということを彼は主張しました。X,Y方向でフォーカス回数が違う場合、像は 裏返しになりますが、これは電子顕微鏡の場合特に問題にならないからです。図3(b) にはその形状を図4(b)に軌道を示しました。

Y-方向のクロスオーバーのフォーカス回数が二回に減少すれば、端面傾斜角の減少が 実現します。平行磁極面の電磁石ではX-方向フォーカスは出来まするが、Y-方向には フォーカス作用がありません。Y-方向フォーカスを実現するために、磁極の端面傾斜 が行われていますが、この角度が45°を超えた場合急速に収差が大きくなることが わかっています。Y-方向へのフォーカス回数が一回減れば、トータルとしての端面 傾斜角度が小さくて済みます。これはΩフィルタの形状設計に大きなメリットになり ます。実際、図3(a)と図3(b)を比較すると、端面傾斜角は図3(a)の方が大きく なっていることがわかljます。

B-typeの利点はわかりましたが、欠点はあるのでしょうか。本質的なことは文献 には出てきません。その理由は、収差補正にあります。A-typeは、収差補正が出来 ますが、B-typeは収差補正装置を組み込むことが出来ません。その理由は、A-type では、像軌道が中心面上でフォーカスしているのに対して、B-typeではY-方向の像 軌道が中心面でフォーカスしていないどころかここで最大値を持っていることにより ます。像軌道が中心面で光軸上にあれば、これに影響を与えることなく中心面に 収差補正用多極子を入れてクロスオーバー軌道を補正することが出来ます。 このような補正はA-typeの場合にだけ行うことが出来るのです。ただ、実際の 応用上は、クロスオーバー軌道の収差を補正してもエネルギー分解能を向上できるか どうかというくらいで、像に残った収差が補正されません。像軌道の収差を補正する ためには、クロスオーバー軌道がゼロになる面でなければならないのですが、そこは スリット挿入位置と重なるため、困難が大きいのです。ということで、オメガフィルタ は、多極子補正にはA型であれ、B型であれ適していないと考えた方が良いでしょう。 多極子補正を入れるのであれば、わざわざ対称性によって収差補正を行わせるインコラム 型のエネルギーフィルタを用いるよりも、後で示しますアウトオブコラム型のエネルギー フィルタを用いて、エネルギーフィルタの作る2次週差全体を収差補正してしまう方が はるかに簡単な装置構成となります。

収差補正多極子を組み込むのであれば電磁石を4子も使って二次収差のキャンセルを 行う必要はなく、電磁石は一個だけにして多極子補正に収差の補正は任せればよいと いう考えが成り立ちます。補正を前提とすれば、オメガフィルタの役割は、単に入射 ビームと出射ビームの軸を一致させてフィルタをレンズ系の途中に入れるインコラム 型のフィルタを実現するだけだとも言うことが出来ます。

4.Ωフィルタの設計に要求される事柄

実際の設計に当たっては次のような点に注意が必要です。
1. 光軸が最初決まっていない。これは、偏向電磁石の形状と、その励磁強度に 依存します。
2. x,y方向によりレンズ作用が異なりますが、最終的に非点のない像を作らな ければなりません。
3. クロスオーバー面でも非点のないフォーカスを作る必要があります。設計の プロセスとしては、まず、SCOFF(Sharp Cut Off Fringing Field)近似によって、 アナリティカルな解から最適形状を決めます。続いて、フリンジの影響を数値計算 によって求め、最終形状を決定します。

3. SCOFF近似


SCOFF近似では、磁場の強さはフィルタの縁で突然最大値になり、反対側の縁で零に 戻ります。このため、マグネット内で磁場の強度が一定となり、光軸はマグネット内 では円弧をなし、マグネットの外では直線となります。Paraxial軌道は、B1, B2に依存 します。ここで、ビームがマグネット端面に垂直に入射すると、B1(一様磁場)だけで、 B2(4極場)はかかりません。磁極端面が傾斜している場合には、4極場がかかりますが、 SCOFF近似のときは、この場は、傾斜角に比例する大きさで、δ関数で与えられます。

一方、2次収差は、B1,B2,B3に依存します。SCOFF近似では、B3はマグネットの端面 でのみ発生し、やはりδ関数で与えられます。B3の大きさは端面傾斜角と、端面が 直線ではなく曲面になっている場合はその曲率によって決まります。収差は、場のある 区間に渡っての積分で与えられますが、SCOFFでは、場がδ関数で与えられますので、 解析的な関数として求めることが出来、Roseの論文に記載されています。このようにして、 SCOFFの場合には、収差は解析関数で求められ、収差積分を数値的に実行する必要があり ません。
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Ωフィルタは中心面対称を成していますので、解析は、中心面から後半部分だけに 限ることが出来ます。SCOFFの下では、解析に当たってのパラメータは次のとおりで す。
マグネットの半径 R3, R4
ビーム偏向角度 Φ
ドリフト長 L3 (対称面からマグネット3まで), L4
(マグネット3とマグネット4の距離)、L5 (マグネット4からスリット面までの距離)
及びLL(最終像面とスリット面の距離)、
マグネット端面の傾斜角 τ1, τ2, τ3, τ4
ΩフィルタのタイプによるX,Y方向のフォーカ
ス回数の別。
A-type(X-3, Y-3), B-type(X-3, Y-2)

これらの値の初期値を決めてビームを基本となる4軌道について飛ばしてみる。 通常、フォーカスを得ることが出来ないので、端面傾斜角を変更し、フォーカス が得られる条件を探す。うまく見つからない場合には、さらにドリフト長を変化 させる。フォーカスが得られれば、分散の大きさと2次収差の計算が実行できる。

このように光軸が曲がった系では、ラウンドレンズの場合とまったく異なる重要な 事実があります。それは、フォーカスは設計で決まるということです。ラウンドレンズ の場合は、フォーカスは電圧やアンペアターンの調整によって合わせることが出来ます。 しかし、曲がった光軸を持つ系では、フォーカスは光学系の形状で与えられるので、 後で変更することが出来ません。それではアンペアターンは何を決めるかといえば、 それは曲率半径でする。フォーカス合わせのためにアンペアターンを変えてしまうと、 ビームは光軸から外れてどこかへ行ってしまいます。このように、曲がった光軸系 では、フォーカスの精度がシミュレーションの誤差で決まってしまうので、シミュ レーションの重要性が非常に高くなることがわかります。

4.フリンジの磁場分布を使った軌道計算と収差の積分



SCOFFによる設計は、大体の見通しを与えるだけで、実際に製作する磁石等の形状 や配置を決めることは出来ません。フリンジ場の下では、光軸すらもSCOFFの円軌道 と異なっています。フリンジ場では磁場の強さが場所によって変化していますので、 そこを通る電子ビーム軌道の回転半径は刻々と変化します。そこで、本当の光軸を 求めることは絶望的に難しい作業となります。ここでは、本当の光軸の入り口と出口 を求め、これらがSCOFFの光軸と一致するように調整するという手法を用いることに します。これは、虚像のレンズの場合に、次のレンズから見て像はどこにいたことに すれば良いかを決めること同じで、実際の像については考える必要がなくなるのです。

フリンジ場は、図5のような分布を持っています。そこで、フィルタの領域を次の3つ に分けて考えます。まず
、1. 磁場のないドリフト領域、
2. 磁場の変化しているフリンジ領域
、3. 磁場が一定値を持つマグネット 内部領域。3の領域内では、場は一様で分布を 持たないと考えます。実際にはマグネットのポールピースの幅によって、場の強さは 分布を持ちますが、この分布を無視して一様場を仮定します。次に、2のフリンジ領域 では、フリンジ場の分布は端面傾斜角、あるいは曲面によらず一定であると考えます。 こうすると、フリンジ場の分布は、マグネットのギャップ長Sと、ミラープレートと マグネットの距離Gの2つだけに依存することになります。この2次元的分布を別に シミュレーションによって求めておきます。必要とあればミラープレートのギャップ がマグネットのギャップ長と異なる場合も考慮できます。この仮定では、3次元的分布 は考慮しないので、ポールピース面が傾斜している場合には対応できません。しかし ながら、これまでの経験則として磁極面傾斜を持つ場合には分散を大きく取れると いう利点があり、端面が曲率を持つ場合には収差が低減されるという利点がある ものの、いずれの場合も実験的な成功を収めているケースがほとんどないことから、 それらの場合が考慮できない仮定をしてもかまわないともいえます。これら2つの場合 が実験的にうまくいかないケースが多い理由としては、偏向磁石が1個ではなく何個 かの組み合わせで用いられていることによるものと考えられます。磁石が一個だけで 使われる場合には両者とも成功裏に使われているケースが見られるからです。  

 ポールピース面が傾斜している場合を扱う方法は、ポールピースのある傾斜角に 対して、端面傾斜を例えば10°おきなどの飛び飛びの値にしたときの3次元磁場分布 をあらかじめ求めておき、これをテーブルデータとして記憶しておきます。次に、 フォーカスの操作を行って、端面傾斜角がある値になった場合に、そのときの フリンジ場の分布を先のテーブルから内挿によって求め、軌道を計算することに なります。

さて、実際の光軸はSCOFFの光軸とはずれます。このずれをドリフト長の調整によって SCOFFに一致させます。全体の軌道をSCOFFに一致させることは出来ませんが、3番目の マグネットの入り口と、4番目のマグネットの出口における光軸をSCOFFと一致する ように、フリンジ場の分布の中心位置の座標をシフトさせて、光軸を計算し、この 出口がSCOFF軸と一致するまで試行錯誤的にフリンジ場の位置を調整します。次に軌道 と収差を求めるためには、ビームの各点でのB1, B2, B3の値を求めなければなりません。 磁極端面の傾斜があるので、磁場のX成分と、Y成分がこの傾斜角θによって決まります。 次にフリンジ磁場分布B(ζ)の一回、2回微分を求めておきます。これらを用いて光軸上 の各点での磁場の多極子成分が計算されます。

これらの場の値を使って、paraxial方程式をRunge-Kutta方程式で求めます。このとき、 4つの軌道方程式のフォーカスを合わせなければなりません。像軌道Xα, Yβは像面に フォーカスさせなければなりませんし、 クロスオーバー軌道Xγ, Yδはクロスオーバー (スリット面)にフォーカスさせる必要があります。これらの4つのフォーカスは、基本的 にはマグネットの4つの端面傾斜角を変化させることによって合わせることが出来ますが、 これらの端面傾斜角のどれかが、大きすぎる場合には、ドリフト長の長さを変えて フォーカスを合わせるようにします。


5 まとめ



ここではTEMに接続して用いられるイメージングエネルギーフィルタを取り上げ、 単純にエネルギースペクトルを取れば良いアナライザからエネルギー選択をした イメージングを行わせるためには何が必要かを見てきました。その最初は二つの 磁場プリズムとその間に電場ミラーを挟んだPMPフィルタでした。この フィルタでは、磁場プリズムが作り出す二次収差を対称な二つのプリズムを 用いることによってキャンセルさせていました。しかし、二次収差がこのような 対称な二つのプリズムでキャンセルされるということに対する認識がなかったのでした。 加速電圧を高くするために、電場ミラーを別の磁場プリズムで置き換えたところ、 対称性が自動的には満足されなくなり、大きな二次収差が出てしまいました。そこで、 対称条件の重要性が認識され、オメガフィルタやアルファフィルタといった対称条件 を満足するイメージングフィルタが開発されました。これに対して、あくまでも一個の 磁場セクター磁石を使い、二次収差は4-6極補正子によってキャンセルしようという フィルタが現れました。球面収差補正が当たり前のように使われる現在の状況下では、 対称条件によって自動的に二次収差をキャンセルする方式は、フィルタが完成した後で 設計と現実の装置との狂いによって残る二次収差の影響が、球面収差補正によって、 はじめて使えるようになった大きなビーム入射角の下であらわに見えるようになった のです。結局は二次収差補正機能を持っている4-6極補正子付フィルタに性能的に及ば ない結果となっています。イメージングフィルタ開発の当初は、自動的に補正できる フィルタの方が、補正子を使う方式より優れていると思われましたが、結局、設計時には 完全には補正できるかどうかを見通すことが出来ず、実験時に補正しなければならない ということになれば、大掛かりな対称条件を入れるよりも、最初から補正子に頼る方が 優れていることになり、これも時代の流れと考えるほかはないということができます。
図1. Senoussiによって最初に実験されたオメガフィルタ。
図2. 合計の回転角が360となるアルファ・フィルタの形状。
図3(a). Omega Filter A-typeの形状。
図3(b). Omega Filter B-typeの形状。
図4(a). Omega Filter A-typeクロスオーバー軌道。
図4(b). Omega Filter A-typeイメージ軌道。
図5(a). Omega Filter B-typeの像軌道のX方向。
図5(b). Omega Filter B-typeの回折軌道のX方向。
図5(c). Omega Filter B-typeの像・回折軌道のY方向。
図6. Omega Filter フリンジ場の分布。
References

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[3]. H. Rose, E. Plies, Entwurf eines fehlerarmen magnetischen Energie-Analysators, Optik 40 (1974) 336-341.
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[5]. S. Lanio, High-Resolution imaging magnetic energu filters with simple structure, Optik 78 (1986) 99-107.
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[9]. S. Taya, Y. Taniguchi, E. Nakazawa, γ-Type Energy-Filtering Transmission Electron Microscope, Hitachi Review 45 (1996) 35-40.

目次(全体)

0.最初のページ
1.レンズの光学(FromTheGodHand)
2.透過電子顕微鏡(TEM)の電子レンズ
3.
走査電子顕微鏡(SEM)レンズ
4.
光電子顕微鏡(PEEM)電子レンズ
5.偏向と非点補正
6.収差補正
7.エネルギー・アナライザ(文献から)
8. エネルギー・アナライザ(計算・作成済み)
9. その他(スピン回転器)
10.ヨーロッパ(Czech)訪問
11.著者のページ

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.7.エネルギー・アナライザ(文献より)
.7.1. エネルギー分析装置の分類
.7.2. エネルギー分析装置・ミラー
.7.3. 画像エネルギー分析器の前夜
.7.4. 静電プリズム・CDA127
.7.5. hemisphericalアナライザ
.7.6. 二重収束アナライザ(HDA)
.7.7. プリズムミラープリズムフィルタ
.7.8. 収束静電プリズム・SDA180
Wienフィルタのスピン回転器への応用
8.エネルギーフィルタ(製作済)
1.WienFilterの歴史と東北大・田中研
2.オメガフィルタ
3. 多極空芯コイルWienFilterと北大・朝倉研
4. 飛行時間フィルターTOF・(株)北海光電子
.

目次(全体)

1.最初のページ

2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
4.光電子顕微鏡PEEM
5.エネルギー・アナライザ
6.Wien Filter
7.収差補正
8. スピン回転器
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作成日 2011/09/04-->修正2014/09/23-->2015/05/07 2018/04/27