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  ・ 第4章・Wien Filterの応用I・スピン回転器

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EOS津野の
電子光学講座
Electron Optics Solutions Tsuno
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ウィーンフィルタの応用例のひとつとして、スピン回転器を取り上げてみます。電子には、 マイナスのチャージと言う性質のほかに磁石としての上向き、下向きの方向性を持つスピンと言う 性質があります。電子のスピンを使った応用としては、SpinSEMと言う磁区観察装置があります。 これは、試料から放出される二次電子が試料の磁化の方向に依存したスピンを持つと言う性質を 利用して、この方向性をモット検出器で検出して磁区コントラストを得ると言うものです。

もうひとつの磁区観察方法は、スピン偏極電子源と言うもともとスピンの向きがそろった電子ビーム を発生できる電子銃を用いて、スピンのそろった電子を磁性体試料に当てます。このとき試料表面 から反射して出てくる反射電子は、試料のスピンの向きに依存した大きさになります。この場合は、 SEMではなくLEEMと言う直接写像方式の顕微鏡が用いられ、Spin偏極電子源を用いることから SPLEEMと呼ばれています。スピンSEMではモット検出器、SPLEEMではスピン偏極電子源が必要ですが、 両方の装置に共通して必要となるのがスピン回転器です。

Wien Filterはこのスピン回転器として、非常に優れた性質を備えています。ここでは、 スピン回転器としてのWien Filterの応用例について述べます。

第4章・Wien Filterの応用 I。スピン回転器


ウィーンフィルタの作る一様場と4極場
Wienフィルターの断面。
ウィーンフィルタでは、丸いビームを作るためには一様な電場磁場の他に4極場が必要です。上の図は、 電場で一様場と四極場を作った例で、これまでの章で説明してきたウィーンフィルタを使って、両方の 場を生成させています。

それではまず、どうしてWien Filterがスピン回転器として使えるかを説明します。

スピンを回転させるには、電子の向きを変えれば良いわけです。このためには、電子の進行方向に対して 直交して磁場を加えてやります。この場合、電子にはローレンツ力が働き、電子は偏向されます。 この偏向力によって、電子は回転運動を行います。回転運動の半径は磁場の強さによって変化します。 この関係は、

Rm = mv / eB1     (1)

と表されます。Rmが回転運動の半径、mは電子の質量 m=9.109e-31 kB, vは電子の速度、

v = sqrt(2xeUo / m) (2)

と表され、e は電子のチャージ e = 1.602e-19 C (クーロン)、 B1は一様磁場の強さ、Uoは 電子を加速したときの加速電圧です。(1)式に(2)式を代入すると、ある回転半径を得るに必要な 磁場の強さを求めることが出来ます。このB1を与えたときにスピンがどれだけ回転するかと言うと、 電子の進行に対していつまでも磁場がかかり続けていれば何回転でもしてしまいます。そこで、 回転を90°で止めようと思えば、マグネットを90°回転したところで終わりにすればよいわけです。

今、回転半径25mm, 加速電圧5kVのときにいくらの磁場を作り、その磁場をギャップ長12mmの マグネットで発生させるためには何アンペアターン(AT)の電流を流せばよいかを計算してみましょう。

B1 = Sqrt(2mUo / e) / Rm = 9.538 mTesla

真空の透磁率 μ=4πe-7を用いて、マグネットの励磁アンペアターンNIは、

NI = B1S / μ = 0.009538*0.012 / 4μe-7 = 91.08 AT

となります。これだけのアンペアターンの電流をマグネットに加えた場合、R=25mmの回転半径で電子が 回り続けることになるわけです。問題は、いろいろな角度で電子を回転させる方法はどうするかと言うことを 考えてみましょう。装置としては、電子がいろいろな角度で出てきたのでは、その後の装置のつながりを その都度角度を変えて接続しなおさなければならなくなるので厄介です。スピンの回転は行われますが、 電子は常に同じ方向に出てこなければ装置としては成り立たないわけです。

ここが、Wien Filterが出番を迎える理由があります。Wien Filterは、電場と磁場を重畳させて、常に 電子ビームが直進するように作られています。いま、上で求めた磁場をウィーンフィルタに加えたとしたら、 スピンは回転しますが、電子は直進を続けますので、装置はスピンの回転角度に応じて向きを変える必要がなくなります。

それでは、フィルタの長さはどのように決めればよいでしょうか。フィルタの長さLは回転半径Rmとの関係で 決められます。円周の長さを90°回転のときの長さにするには、πRm / 2 = 3.14*25 / 2 = 39.25 mm と成りますので、L = 40 mm の長さのウィーンフィルタを作れば90°回転したときに丁度フォーカスするような ウィーンフィルタとなるわけです。つぎに、ウィーン条件を満たす電場の強さを求めておきましょう。

E1 = 2Uo / Re = 2*5000 / 0.025 = 400000 V/m

ここで、Reは電場による回転半径です。次にこの電場をギャップ長Se=12mmの電極で作るに必要な電圧を 求めましよう。

V1 = E1*Se = 400000*0.012 = 4800 V.

おのおのの電極に+2400V, -2400Vの電圧を与えればよいことがわかります。このようなウィーンフィルタを 作って電子ビームの進行方向に置けばスピンを90°回転できます。
ウィーンフィルタの電子軌道
スピンの90°回転に対応したWien Filterの電子軌道。

回転角を小さくするには、ウィーン条件E1 = vB1を保ったままE1, B1を小さくしていけばよいわけですが、 そうすると上の図の右側のビームのフォーカス位置がどんどん右側にずれていきます。ウィーンフィルタ の先にどんな光学系が配置されるかわかりませんが、これでは使いづらくてだめです。 回転角を変化させても光学系の条件があまり変わらないようにするためには、二段のラウンドレンズを用意します。 下の図のように、この二段レンズで二つのフォーカスを作ります。
二段静電レンズの軌道
二段静電レンズの軌道2 スピンの90°回転に対応したWien Filterの電子軌道。



静電レンズのポテンシャル分布
静電レンズ
静電ラウンドレンズとしては、左の図のようなものでも良いでしょう。このような静電レンズは、 電極が三枚あって、両端の電極はアース電位で真ん中の電極にだけ電圧をかけます。この真ん中の電極の 電圧を調節して、フォーカス合わせをします。このようなレンズをアインツェルレンズと呼びます。 この二つのアインツェルレンズの最初のフォーカス点にウィーンフィルタの中心が来るように ウィーンフィルタをおきます。これで、ウィーンフィルタの電流・電圧をオフにしたとき、つまり スピンの回転を起させなかった場合と、フルに電流と電圧を与えてスピンの90°回転を行わせたときの 両方の場合について、うえの図に示したと同じ場所に二回のフォーカスを作るために、アインツェルレンズの 電圧をどのくらい変えればよいかを求めてみますと、下の表のような値になります。
アインツェルレンズのフォーカス電圧
アインツェルレンズのフォーカス電圧
アインツェルレンズのフォーカスに必要な電圧変化が非常にわずかでよいことがわかります。 通常の使用においては、フォーカス調整をすることなく使用しても問題ありません。このように、 二段のアインツェルレンズに挟んでWien Filterを用い、ウィーンフィルタを第一のフォーカス点 に一致させておけば、他に何も調節することなく、スピンを90°(+=90°でも良い) 回転させることが出来ます。

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