EOS津野
電子光学講座

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エネルギー分析装置はエネルギーによって電子の軌道がずれるいわゆる分散を作る 方法とこれを作らずに半透明ミラーでエネルギーによって電子を分けてしまう方法と 電子が一定の距離を走るのに必要な時間を測定する飛行時間(TOF)法に分けることが 出来ます。ただ、大部分の方法は電子と電場や磁場などの相互作用によるローレンツ 力を利用した分散法と言うことができます。半透明ミラー法のほとんどは表面分析 装置に利用されています。分散を作るミラー法もあります。電子顕微鏡などでは 分散法の中でもプリズムと呼ばれる方法がほとんどを占めます。ここでは、 いくつかのミラーを利用した方法を説明します。

ミラー型エネルギー分析装置

半透明ミラー

ミラーの中に入った電子は減速作用を受けます。いったん電子の速度がゼロになって、 向きを変えて戻ってくる場合もあります。 収差補正ミラーのところ でも説明しましたように、このとき電子の持っているエネルギーによって反転して戻る 位置が変わってきます。そこで、速度の速い電子と遅い電子の順序が逆転し、色収差が 逆になるのでした。収差補正への応用ではなく、エネルギーアナライザへの応用として 使う場合は、これと違う点を利用します。

エネルギーアナライザとしてよく使われているミラーとして、半透明ミラーと呼ばれて いる方法があります。これは、図1に示したような穴の開いた二枚の並行平板電極を使う 場合と、グリッド(網)を使う場合とがあります。原理は同じです。シミュレーションでは 網を表すのは難しいので、一枚の板で電場計算し、その板を電子が通り抜けることが出来る ものとして電子軌道は計算します。そこで、ここでは穴あきの場合だけを示しています。 網や板にかける電圧をある値に設定して置きますと、この電圧より高い電圧を持っている 電子は、穴明き板や網の隙間を通り抜けてさらに先まで進みますが、板や網の電圧より低い エネルギーしか持たない電子は、板や網を潜り抜けることが出来ずに引き返します。 これは、ハイパスフィルタであると言うことができます。網を用いることから、グリッド 減速場法という名前も付いています。

静電ミラー

もうひとつのミラーである静電ミラーは、エネルギー分散を作る並行平板型のアナライザ と似ているため紛らわしいのですが、図2に示すように、一様電場の中で、電子は放物線 運動をします。電子は正の電極に明けられた孔から入射し、負の電極に近づく につれての速度を失っていきます。電子はやがて、電極に垂直な方向の速度を失って、 ゼロに成ります。その後で反対向きの速度を獲得して加速されます。そして最初に入った 正の電極からz方向に対称な位置から出てくるわけです。このとき、正の電極位置に 来たときの電極と平行な位置がエネルギーによってずれる、つまり分散を生ずるわけ です。最初に正の電極に電子を入れるときの電極との角度θが45°のときに分散が 最大に成ります。そこで、このミラーをPMA45と呼んでいます。また、入射および出射 のスリットを電場の外におく場合には、角度を30°にとります。これはPMA30と呼ばれて います。一方、同心円筒電極を用いる円筒ミラーCMAでは、物面と像面を同心円筒の 中心軸上に持ってきます。この場合の角度は42°になり、CMA42と呼ばれています。 .

目次(全体) 1.最初のページ
2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
4.光電子顕微鏡PEEM
5.エネルギー・アナライザ
6.Wien Filter
7.収差補正
8. スピン回転器
9.著者のページ

作成日 2012/09/25 修正 2014/09/14, 2018/04/09, 2018/12/26

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図1.半透明ミラー

図2.静電ミラー

文献

1. The Early Development of Electron Lenses and Electron Microscopy
by Ernst Ruska, Translated by Thomas Mulvey, S. Hirzel Verlag Stuttgart (1980)




目次(エネルギーアナライザ)
.アナライザの分類
.飛行時間TOF法
半透明ミラー
.CDA127
.SDA180(HDA)
.半球アナライザ
.TOFと磁気ボトルを使った光電子分光