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.

目次(全体)

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2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
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5.エネルギー・アナライザ
6.Wien Filter
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8. スピン回転器
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EOS津野
電子光学講座
Hemispherical Analyzer(HSAまたはHDA)と呼ばれている静電エネルギーフィルターは、最近の表面分析装置に 取り付けられているエネルギーフィルタの主流となっています。静電フィルタは、大きく ミラー型とプリズム型に分けられます。数十年前にはミラー型が多く使われていました。 プリズム型の場合は、CDA127と呼ばれる一方向収束型フィルタが一般的でした。 これは、同心円筒を用いるもので、電極間方向(X)にはフォーカスしますが、これと直交する Y方向へのフォーカス作用がありませんでした。そして、フォーカスする時までの偏向角が127° であったことからCDA127と呼ばれました。Y方向へもフォーカスさせるためには、Y方向へも 極率を持たせるため球面にする必要がありました。このため、球面を持ったフィルタは SDA180と呼ばれました。X, Y両方向にフォーカスさせると偏向角が180°になったからでした。 ただ、SDA180と呼ばれた時代には、必ずしも、おわん形の半球すべてが使われず、これを途中から 切り出した形のフィルタが多かったかもしれません。おわん形のフィルタをそのまま用いる ようになってからHemispherical Analyzerと呼ばれるようになったかもしれません。

Hemispherical Analyzer (HDA)半球フィルタ

二枚の電極を同心円筒形に置いて、その間にプラス・マイナスの電圧を加えますと、電極間に一様場 E1が形成され、その間に電圧Uoで加速された電子を入射させますと、電子は円運動をし127°回転した 所でフォーカスします。しかしこのフォーカスは電極間の方向Xのみであって、電極の板に平行な方向 Yにはフォーカス作用がありません。これが有名なCDA127と呼ばれるエネルギーフィルタです。Y方向 へのフォーカスも得るためには、一様場E1の他に4極場E2を与える必要があり、二つの同心半球を重ね 合わせた半球型フィルタHDAまたはSDA180と呼ばれています。このフィルタは180電子が回転した 所でフォーカスします。どうしてX方向だけの一方向フォーカスをするCDA127が127°でフォーカスす るのに対してX,Yの二方向にフォーカスするHDA (SDA180)では180°まで偏向しなければならないかと 言うと、その理由は、Y方向にフォーカスを作るために加えられた4極場成分E2のレンズ作用は、 4極子レンズで、このレンズでY方向に凸レンズ作用をさせてフォーカスを作ると、X方向には凹レンズ となって、せっかく一様場によって作られたX方向の凸レンズ作用が弱められるため、より長い距離 にわたってレンズ作用を行わせなければならなくなるからなのです。

半球フィルタは、二枚の半径の異なる同心半球を重ね合わせ、その間に電子を入射させ、反対側から 取り出します。このとき、反対側から出てくる電子ビームの軌道は電子のエネルギーによって異なる ため、エネルギーの違いによって電子を分析することが出来ものです。両電極に与える電圧は、

で表わされます。また、エネルギー分解能は、

となります。後の式は、極めて常識的なことしか述べていない式で、パスエネルギーEpassが小さければ それだけ検出できるエネルギーも小さくなります。入射ビームのスリット幅W1または出射ビームのそれ W2が小さいほうが分解能は高く、またビームの開き角αも小さいほどエネルギー分解能は高くなります。 しかしながら、これらはいずれもビーム量を少なくしてしまいますので、それぞれ最適な値があること になります。ビームの回転半径Rについては大きい方がエネルギー分解能が高くなります。 これについてはビーム量とは無関係ですから、大きな装置を作るほど性能が上がることになります。

図1. 半球フィルタ内の電子軌道のシミュレーション。
図2. 電子軌道が電極間の中心を通る工夫をした場合。
図1は、半球フィルタ内での電子軌道のシミュレーションを示しています。エネルギーの異なるビームが 二本に分かれているのが分かります。このようにしてエネルギーの違いによって電子軌道を分けてやる、 これを分散というのですが、Hemispherical analyzerは分散によってエネルギーを分離する分析装置に なります。ところで、この図を見てすぐ気がつくことですが、ビームは、二枚の電極の真ん中を通らず、 下側の電極にすれすれの所を通っています。これが半球フィルタの大きな問題点でした。文献を見ますと、 いろいろな工夫をして、この問題を逃げる対策をしていることが分かります。

例えば Physics Procedia 1 (2008) 467~472
Proceedings of the Seventh International Conference on Charged Particle Optics
First-order focusing and energy resolution optimization of a biased paracentric hemispherical spectrograph
Omer Sise, T.J.M. Zouros, Melike Ulu, Mevlut Dogan  
は、ビームの入射位置を半径方向にずらせることによってビームが電極間の中心を通るように調節 出来ることを示しています。

なぜこのようにビームが電極間ギャップの中心を通らず下側電極によるかと言えば、電子がマイナスの チャージを持っており、下側電極はプラスの電極だからと言ってしまえばそれまでなのですが、別の 言い方をすると、半球フィルタ内での電子の軌道は円運動ではなく、楕円の軌道を描きます。これを ケプラー軌道と言います。両極間で1/rで変化する電場の中をケプラー軌道を描いて進む電子と言う わけです。

例えば
The hemispherical detector analyser revisited. I. Motion in the ideal 1/r potential, generalized entry conditions, Kepler orbits and spectrometer basic equation
T.J.M. Zouros , E.P. Benis
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 125 (2002) 221?248

というタイトルからもそのことが分かります。下側の電極にぶつかりそうになるのを防ぐためには、 電極同士を離せば良いのではないかと単純に考えがちですが、残念ながら、電極間距離を大きくするほど 軌道は内側の電極に近づくと言われています。それではなぜ円軌道を描かずに内側電極に接触しそう になるのかと言えばそれは、自由空間から電極に入ったり、あるいは出たりするところ、ここを フリンジ場の領域と呼んでいますが、フリンジの電場の影響であることが分かっています。フリンジ の影響であることが分かれば、ビームの入射と出射位置のシールドの形を工夫すれば図2のように ビームを電極間の中心を通してやることが出来ます。なまじ、ケプラー軌道などと言う難しい言葉を 出してくると、楕円軌道が本質的かと誤解しかねません。図2の場合は、エネルギー差を付けた 二本の軌道は描いておらず、一つのエネルギーのみについて軌道を描いています。

図3. ドリフトのある90°偏向型の場合。
ドリフトのある90°偏向型の場合でもフリンジに何も工夫がないと軌道は内側電極によってしまいます。 図3では、球面の一部を切り出して90°偏向でフォーカスするように調整した場合のフィルター内での 電子軌道を示しています。このように、電子の軌道が内側電極に寄ってしまうことがこのフィルタの 大きな問題点で、このため、ビームが内側電極に遮られて出て来ないことも起こります。シミュレ ーションなしで作られた装置などでは起こりがちな不具合の一つです。

この90°偏向型の静電フィルタについては、次の論文でも詳しく解析されています。 Fringing field correction of the second-order angular aberration in sector field electron energy analyzers
M.I. Yavor, V.D. Belov, T.V. Pomozov
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 168 (2008) 29~33


技の節では、エネルギー選択イメージングのために半球を二つつなげたフィルタについてお話します。

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作成日 2012/03/02