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EOS津野の
電子光学講座
コンタクト tsuno6@hotmail.com |
永久磁石でレンズを作った小型SEMは、
テクネクス工房さんから発売されています。
この会社は、永久磁石SEM専門の会社で、受注した装置の一台一台について、改良が
積み重ねられ、数年前にシミュレーションをしてみたときに驚いたことには、全ての点で、
発売されている装置を上回る性能を持った装置を提案できなかったことでした。つまり、短期間の
シミュレーションでは実物の改良の積み重ねを上回ることが出来なかったわけです。以下で
ご紹介するのはそのとき行ったシミュレーションの一端で、商品機についてはノウハウも
ありましょうからここでのご紹介は避けております。 |
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デスクトップ型永久磁石レンズ
永久磁石を使ったレンズを持つSEM(走査電子顕微鏡)は、デスクトップタイプが
テクネクス工房さんから発売されています。このSEMの改良を目的としてシミュレーションを
行いました。結果は、現実に販売されているSEMを全ての点で上回る性能の装置を提案
することは出来ませんでした。受注した製品を作るに際して一品、一品に改良を加えて
いった長い努力の結果に対して、数か月程度のシミュレーションではそれを上回る成果を
上げることは出来なかったということです。最近、将棋の世界で、コンピューターがプロを
負かしたとして話題になりましたが、永久磁石SEMのシミュレーションでは、現実
を上回る成果を、コンピューターシミュレーションでは上げることが出来ませんでした。
ここでは、現実の製品についてのシミュレーション結果については、ノウハウなど
差しさわりもあるといけませんので、色々試行錯誤したシミュレーションの結果だけを
お示しすることにします。
さて、図1は2つのレンズを持つ永久磁石SEMの磁束密度分布と光軸上の磁場分布を
示しています。コンデンサレンズ(CL)と対物レンズ(OL)は現実の装置では、それぞれ
別々の2段レンズシステムで構成されているのですが、これを一つにまとめられないか
どうか検討したときのものです。永久レンズで作る磁気回路では、このように二つの
起磁力源と、2つのギャップ、3つの磁極を持つように作られます。製品版では、CL
として3磁極レンズ、OLには2ギャップ、3磁極ですが、永久磁石は1個のみとなっており、
ひとつのギャップのみをってビームをフォーカスさせ、もう一つのギャップは、試料の
下に出るようになっています。つまり、OLの2つのギャップのうち使っているのは最初の
一個だけで、後半の一個の磁場は利用していないことになります。
このような構成よりも、これらの2つのレンズを一つにまとめることが出来れば、コスト的に
有利になるわけです。永久磁石の磁場は、装置の使用中に変更することはできませんので、
あらかじめ決めた条件で使う以外になく、変更できるのは試料位置と加速電圧だけになり
ます。図2からわかることは、加速電圧5kVと17kVで比較しますと、右側のフォーカス位置が
試料を置くべき場所になりますが、5kVの場合はもう一つコンデンサレンズCLの後に一度
フォーカスし、試料位置では二度目のフォーカスになっています。これに対し、加速電圧
を高くして17kVとした場合には、CL+OLで最初のフォーカスが出来ます。
これまでは、永久磁石もギャップの数に対応させて2個入れていましたが、図3の場合には
永久磁石は1個だけに減らされています。永久磁石が一個に減ったことで、全体として磁場
は弱くなりましたが、例えば磁石の長さを長くすれば作られる磁場の強さは同じにできます。
今は、磁場が弱くなった分は加速電圧を下げることで調節した場合を示しています。加速
電圧は3種類計算していますが、試料上の同じ位置にフォーカスする条件は探していません。
永久磁石は一個でも、二個でもどちらでも同じだということがこれで示されていると思います。
ここで、このソフトウェアの使用条件についていくつか説明が必要です。これまでは、磁場の
計算を2次元軸対称のソフトを用いて行って来ました。そこで、形状を表す図も、中心線から
上の部分だけが描かれています。電子軌道も中心線から上の部分だけが描かれています。3次元
ソフトで磁場分布を計算しておけば、電子軌道も3次元で計算できますが、ここでは系が軸対称
であるため、磁場の計算を二次元軸対称で計算したため、電子軌道の計算も2次元で行われ
ました。この後で、マルチポール永久磁石についての計算を行いますが、マルチポールの
場合は当然、3次元での計算になりますので、色々な問題も発生してきます。
作成日 2012/09/25 修正 2014/09/14, 2018/05/06
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