EOS津野
電子光学講座

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ZeissのSEMは試料と対物レンズ底面の間に置かれたET検出器をあくまで使えるように、 試料と対物レンズの間を電場も磁場もない空間に保った構成をしています。これに 対して、日立のSEMは全2次電子を対物レンズOLの中に吸い込み、ウィーン・フィルタを 利用したビームセパレータを用いて2次電子を光軸から曲げて対物レンズ上部の横に置かれ た検出器に吸い込ませています。Zeiss方式の試料の横に置かれたET検出器で2次電子を検出 するには、OLと検出器の間を無磁場、無電場の空間としなければなりません。一方、OLに 2次電子を吸い込ませる日立方式では、吸い込まれた2次電子がOLの中を登っていくときに レンズの中の無磁場空間を巻き上がっていくようにしなければならないことと、電場を 掛けて、の二次電子を集める際に、一次ビームを妨げずに、二次電子を検出器に引き込 まなければなりません。後者ののために使われたのが、Wienフィルタを利用したビーム セパレータで上から下に降りていく、一次ビームに影響することなく、下から上に 上がっていく二次ビームだけを検出器の方に曲げてやることが出来ます。このように、 SEMの基本形はZeissと日立と言う二社で全く異なる方式が使われています。この違いは、 Zeissは像のコントラスト重視、日立は像の空間分解能重視と言う要求される性質の違い から来ているとも言えます。 つまり、Zeissは半導体検査装置はICT、一般用途はZeissと別れているのに対し、日立は 検査装置で世界を席巻するシェアを持つ大メーカーとして、半導体の微細化に対応する 空間分解能を維持する責務を負っているという違いにもよるものと言えましょう。

ZeissのSEM Geminiの特徴

普通は、対物レンズの磁場が試料か ら離れているレンズでは、試料が磁場の中に置かれたレンズに比べて性能が悪くなるため、ZeissのGeminiでは、 ドイツの英知を結集したGeminiレンズによって、この不利な点をカバーしています。試料からの2次電子を対物 レンズに吸い込ませるのではなく、試料と対物レンズの間を無磁場の空間にすることによって、この空間に 置かれたET検出器で検出させることは、SEMの立体感のある独特のコントラストを得る上で魅力的なことでした 。他の大部分のメーカーが、二次電子が対物レンズに吸い込まれてしまって、この魅力的な検出器が使えなく なったことをあきらめてしまったことに対し、ドイツの伝統的な電子光学の英知を結集して性能を落とすこと なく、魅力的なコントラストを作ることが出来る試料と対物レンズの間のET検出器を残したのが、Zeissの Geminiだったのです。しかしながら、Geminiのカタログではこの点をうまく説明しておらず、対物レンズの 一部を凹レンズにすることによって、対物レンズと試料の間を無磁場の空間にすることによって試料と対物 レンズの間に無磁場の空間があるにも拘わらず、レンズ性能を落とさずに済んでいると言った読者を欺く ような記述をしてしまっているため、インチキ臭い装置と言う印象を与えてしまっています。読者の多くは、 軸対称なレンズで凹レンズはミラーなどの特別な場合を除いて実現できないということを知っていますので、 対物レンズが凹レンズを含んでいるという記述によってGeminiはうさん臭い装置だという印象を与えて しまっています。凹レンズになるというのは、物面から像面までのレンズ全体に渡ってではなく、レンズ 作用の一部分だけ見ればと言う意味なのですがそれがうまく伝わってはくれていないように見受けられます。 さらには、ET検出器にそれほどこだわった設計がなぜなされてきたかについても十分な説明がなされていない ため、この凹レンズの記述によってずいぶん損をしていると言わざるを得ません。 図1がGeminiの特許からとったGeminiレンズの構造を示す図です。この特許は2019年には期限切れとなります ので、どこでも自由に使うことが出来ます。Zeiss以外のほとんどのメーカーでは、対物レンズの性能を 低加速電圧でも維持するため、試料と対物レンズの間の空間に電場や、磁場がかかるタイプのレンズを 使用していますので、試料から発生した二次電子は対物レンズに吸い込まれてしまい、試料とレンズの 間に置かれたET検出器で二次電子を検出することはできませんでした。Geminiでこれが出来るのは、 Geminiのレンズがこの空間を無電場、無磁場の空間にしてもレンズの性能が落ちないレンズを使用 しているためです。しかし、このレンズの特許(電子顕微鏡システム用対物レンズ及び電子顕微鏡 システム 特許公開番号 特開2004-134379 は2019年には、有効期限が切れますので、間もなくどこ の会社でも自由に真似をすることが出来るようになります。これまでSEMは低加速電圧でも高空間分解能 を維持するため、やむを得ず、ET検出器の使用をあきらめて、対物レンズに吸い込まれた二次電子を像に してきましたが、これからは、Geminiレンズをまねたレンズを作ればET検出器によって、優れた コントラストの二次電子像が復活できることになります。
作成日 2018/05/19 .
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図1.GeminiSEMの全体像。Geminiの特許より。

図2. Gemini対物レンズの構造と電子線の軌道。

図3.光軸近辺だけに電圧をかけるブースターの構造。ICTの検査装置用。

図4. Gemini対物レンズの先端付近の構造。

図5.Mulveyのシングルポールレンズ。

図6.TangのSideGapLens。
目次 SEM(走査型電子顕微鏡)
1.SEM開発の歴史及び検出器
2.SEM用対物レンズ
3.SEM二次電子の発生
4.SEMの_ET検出器
5.低加速SEMのためのリターディング
6.電子銃や検出器とレンズの関係>
7.
永久磁石を使ったSEM
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目次(全体)EOS津野の電子光学
1.最初のページ
2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
4.走査電子顕微鏡SEM
5.光電子顕微鏡PEEM
6.エネルギー・アナライザ
7.Wien Filter
8.収差補正
9. スピン回転器
10.著者のページ

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