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EOS津野の 電子光学講座 |
エネルギー選択をして、特定のエネルギーだけの像を作るイメージングエネルギーアナライザは、
エネルギーアナライザの設計でも最も難しい設計になります。その理由は、イメージに対して
人の目は敏感ですから、収差があるとスペクトルの場合よりも目立ってしまうこともあります。
もう一つは、エネルギー選択をするということは、わざと色収差を大きくして像がエネルギーの違いに
よってずれるようにしますので、それを利用してエネルギー選択をした後で、残されたエネルギー幅
即ちスリットの中に入ったエネルギーの幅分のエネルギーの違いによる像のシフトを放置するのか
それともこれを取り除く操作を行うのかという問題があります。この二つの問題を同時に解決する
方策がアナライザをダブルで用いる方法です。半球フィルタを用いたイメージングエネルギーアナライザ
の場合も、半球を二段にする、ダブル・ヘミスフェリカル・アナライザを用いる場合があります。
ここでは、このHemispherical Analyzerをダブルで用いる場合について考えてみます。
ただ、TEM/STEMなどで用いられているセクター磁石や、オメガフィルタなどではここで言う二段にする
ことによって収差と分散をキャンセルする方法はとられていません。一段、または三段で利用されており、
収差はそれを小さくするためのいろいろな工夫がされていますが、スリット幅の分の残りの分散を
ゼロにする対策は取られていません。このことから、残りの分散の影響はそれほど大きいものではなく、
二次の幾何収差のキャンセルが、ダブルフィルタの最大の目的であると考えることが出来ます。もう一つは、
TEM/STEMなどではもともとエネルギー幅が小さい場合が多いのに対し、表面分析などでエネルギー
選択をしたイメージを表示したい場合、選択するエネルギー幅が大きいことが普通かもしれません。
選択するエネルギー幅が大きい場合は、スリットの幅の中に入るエネルギーのずれによる像のボケが
大きくなる可能性がありますので、分散を再びゼロにすることに意味が出てきます。
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Double Hemispherical Analyzer (HDA) 多段式半球フィルタ
半球フィルタを二段つなげて電子軌道を描かせてみますと、図1のようになります。即ち、分散は二段目で
キャンセルではなく加算されます。おそらく、収差も同じことで、キャンセルはされないと思われます。
分散を大きくとるためには球の半径を大きくするのが普通ですが、半径を大きくする代わりにこのように
二段連続させて使うこともできるわけです。しかし、ここでの目的は、分散を大きくすることではなく、
分散をなくすことでした。一段目と二段目の間にスリットを入れてエネルギー選択を行い、二段目で
分散をキャンセルしてゼロにして像を作る。これが二段半球フィルタの目的でした。この目的を果たす
ためには、二段目の半球を図1の場合のように反対向きにするのではなく、同じ向きにする必要があ
るわけです。しかしながら、半球を同じ向きにしたのでは、半球ではなく一つの球丸ごとになってしまい、
ビームの入り口、出口がふさがれてしまい、穴をあければ、入射ビームが回転することなく出てきて
しまいます。
この困難を解決する方法は二つ提案されています。ひとつは、二つの半球の間にトランスファーレンズ
(倍率一倍のレンズ)を入れてビームを反転させてから二段目の半球にビームを入れる方法、二つ目は、
半球を二段ではなく四段にする方法です。
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図1. ダブル半球フィルタ内の電子軌道のシミュレーション。 |
図2. 前後と間にトランスファーレンズを入れたダブルヘミスフェリカルアナライザ |
下に示します論文は、NanoESCAというイメージングXPS装置についての解説記事ですが、そのFig.1に
二段Hemispherical Analyzerを含む装置の全体図が、Fig.4にDouble Hemispherical Analyzerの中の
電子軌道の図が出ています。このURL見れるページでは、論文全体のコピーがほしい場合は有料ですが、
アブストラクトと図面は無料で見ることが出来ます。図だけ見ることが出来れば大体間に合いますので
見てみてください。
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena 178.179 (2010) 303-316
Applications of high lateral and energy resolution imaging XPS with a double
hemispherical analyser based spectromicroscope
このFig.4でTransfer lensと書かれた四角の中でビームが一倍でフォーカスすることで反転している
わけです。これによって、二個目の半球内で作られる収差と分差は一個目のそれをキャンセルするように
加算されていくことになります。
もう一つの方法は、半球を4個つなげることで、これはTEM/STEMのモノクロメーターとして実際に利用
されていますが、表面分析の分野では利用されていません。
Initial experiences with an electrostatic
O-monochromator for electrons
Armin Huber, Jan B.artle, Erich Plies
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A 519 (2004) 320-324
この論文でも、アブストラクト、図面と図の説明は無料で見ることが出来ます。図1が装置の写真、
図2に4個の半球フィルタをつないだ場合の交戦図が描かれています。初めの2つの半球の分散と
収差は加算され、その次の二つの半球のそれらが反対向きになってキャンセルするわけです。
ですから、この装置の場合は、二個目と三個目の半球の間にスリットを入れてやれば良いことに
なります。この論文では、モノクロメーターとしての利用を考えて設計されていますが、
イメージングエネルギーアナライザとして使う上での不都合はありません。
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作成日 2012/03/02
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