高速度カメラ用永久磁石レンズアレイ
このレポートは、永久磁石に多数の孔をあけ、
これをマルチポールレンズアレイとして使用し、高速度カメラの画像をメモリに
保存するための高速一次元データアレイを作成するためのマルチポール電子レンズ
アレイのシミュレーションです。これは、沢山の孔の明いた永久磁石の計算で、どの
ようにしてメッシュを造れば正しい計算が出来るかと言う、計算手法の問題でした。
もう一つの問題は、永久磁石レンズの作り方の問題で、永久磁石を逆極性で2個
繋げて使うことによって、外部に漏れだす磁場を防ぐことが、永久磁石レンズに
求められる基本的な要求で、それは今回も設計の基本として存在します。
最初に図1に示すように、穴なしで磁石全体を計算し、続いてBoundary条件を
用いて穴ありの約1/4領域の計算に移るこことしました。なぜか理由はわかり
ませんが、対称性を利用して、最初から1/4の領域だけを切り出して計算した
場合には、磁石中心の磁場の値が、磁石の端と同じように低い値になってしまい
ました。但し、磁石ユニット全体の計算は、領域が広いので穴なしで計算しました。
図2はおよそ1/4の領域を切り出して、今度は永久磁石に電子ビームを通すための
孔を明けた場合の図を示しています。永久磁石ユニットの断面構造です。さらに
領域を永久磁石のみに制限して、一つの穴に対するメッシュ数を10個程度まで
増やした場合が図3です。この場合もBzの分布を見る限り、X, Y軸上に乱れは
見られません。このように、バウンダリー条件を使って、計算領域を次々に狭くして、
電子ビームの通る領域だけに、計算領域を限定していくことが出来ますので、今回の
場合のように、大きな磁石に沢山の孔の明いたような系でも、計算精度を失わない
ようにして計算領域を絞っていくことが出来ます。
磁石に明ける穴の位置をX, Y軸上にも置く設計をしてしまいますと、軌道計算が
対称面を横切って進む場合に計算が困難になることから、穴の位置を対称面から
ずらして穴のない位置で切り出したものです。図4は、磁石領域だけに限定して
計算したXY面とXZ面の磁束密度分布の図です。図5には、X方向とZ方向について
計算した磁場分布を示しています。X方向への分布は、磁石表面に置いて計算した
ものですが、バウンダリー条件を使って、穴ナシで計算した分布をバウンダリー
条件として使用していますので、磁石中心で磁場の値は減少することなく、一様な
値を保って、磁石の端近くでその強さを少しだけ増した後減少しています。また、
z方向に中心近くの穴の中を計算した磁場分布では、極性を反転した永久磁石を2個
使っていますので、最初負の値を取り、穴の中でほぼ一定値を取った後、極性を反転
して再びプラスの一定値を取り、端でゼロになっています。
このような磁場分布を持つ、多数の孔を通した電子ビームがどのような電子軌道を
取るかを次に調べました。図6の左の図は、一列に並んだ多数の孔の中をどのように
ビームが進んでいるかを示し、右側には、その一部を拡大して示しています。上の
条件で電子ビームを通した場合、入射ビームは2度フォーカスしており、二度目の
フォーカスビームの収束位置でのサイズは、最初のフォーカスでの大きさより大きく
なっています。2回フォーカスさせる必要はありませんので、加速電圧を上げるか、
永久磁石を薄くするかして、一回だけのフォーカスにするなど、最適条件を探して
実際に使うときの条件を決めていかなければなりませんが、ここまで到達するのに
多くの困難が待ち構えており、長い時間を費やす結果となりましたために、実際には
ここでシミュレーションは、中断してしまいました。江藤先生も立命館大学を定年退職
され、お弟子さんの一人が教授を務めている大阪大学に居候する身となっておられ
ましたので、これ以上の計算を続ける経済力もなくなったため、ここで中断することと
なりました。ここでは、うまくいかなかった多くの試みについては述べませんでしたが
、計算法上の多くの困難があり、ソフトウェア販売会社のASL社に大変お世話になり
ました。
結論
1. ビームが偏向場の影響を受けて穴に入らなかったり、入っても壁にぶつかって
消滅するのは、穴を永久磁石の全面に渡って明けなかったことによるもので、江藤先生
がおっしゃるように磁石全面に渡って穴を明ければ偏向場は生じなくなりました。
2. 計算を磁石ユニットの1/4領域だけで行おうとするとどうしても対称面近傍の穴
の磁場分布がずれてしまいました。これは、最初に全体を穴なしで計算し、バウン
ダリー条件を用いて1/4領域だけの計算に持っていっても、その大きさが減るだけで
解消されませんでした。しかし、これは計算テクニックだけの問題と考えられ、実際
上は問題ないとも考えられましたが、磁石ユニット全体にわたって、同じレンズ特性
を持つのか、それとも場所による変化をするのかの見極めの邪魔になってこれは判断
できませんでした。
3. ASLの平岡さんからは1/4ではなく、穴数個分マイナス方向にずらして、切り取れば
よいのではというご指摘をいただいたが、これについては時間切れで取り組んでいません。
以上の結果、今回のシミュレーションでは、穴を永久磁石の全面に渡って明ければ偏向
場は生じないという、江藤先生がおっしゃっていたことを確認するにとどまりました。
残された問題は、磁石の場所によって磁場の強さに変化が生ずるのかどうかについて
1/4領域を切り出して計算した場合で、対称面近くの磁場分布に乱れが生ずるため、
確かめることが出来ませんでした。また、今回は磁石ユニットの下に正しくフォーカス
すること、その位置に静電偏向場を置き、ビームを振ることについてシミュレーション
をする時間が取れませんでした。
これらの短い時間でできる残されたレンズ特性の解析の他に、実際にこの系を実現
するためには、マルチポールレンズによって試料に当てられたビームのそれぞれに
対して一斉に出てくる反射電子または二次電子を別々に計測すること、ほぼ平行な
マルチビーム電子源を作ることについてのシミュレーションが残されており、これら
については共同研究者を見つけて一緒に取り組んでいく必要があると考えられました。
コンタクト・質問は、こちらまで♪EOS津野"eostsuno@yahoo.co.jp"
著者のページ
作成日 2012/09/25 修正 2014/09/14, 2018/02/12, 2019/03/17, 2019/06/12
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図1. 穴なし全体永久磁石ユニット。 |
図2. 第一象限に-x, -y方向に0.4mm広げた領域。 |

図3. 永久磁石領域だけを切り出し。 |

図4. 磁束密度の計算結果。 |

図5. X方向(左)及びZ方向(右)の磁場強度分布。 |

図6. スキャン位置によってはプラスになる。 |
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