静電8極偏向子を使ったスティグメータ
8極子を二段偏向に使っている場合には、同じものをそのままスティグメータとして使う
ことが出来ます。図1は、8極子の構造を3Dで示しています。電場を計算するためのソフ
トに形状を入力すると、このような3Dの形に出して見せることができます。このため
、CADが使えなくとも3Dの電場・磁場シミュレーションソフトを使って基本的な設計を
行うことがです。この種のソフトを持っていなかったときは、いったん機械設計の人に
大体の図面を描いてもらってから再び光学系の設計をしていたのですが、3D電場・磁場
のシミュレーションをするようになってからは、自分で全体を三藤競るようになってき
ています。部分部分の光学系を設計してからそれらを組み合わせた図なども作ることが
できます。ただ、大きな図になってからは形状が見れるだけで、パソコンなどでは電場・
磁場の計算はコンピューターの容量が小さすぎて計算できないのですが。また、形状の
数も制限があったりして、形状を単純化して数を減らしたりしています。
話がそれましたが、偏向器でどのようにしてスティグメーターの働きをさせるかについ
てまずお話しましょう。8極子はそれ自身、完璧なスティグメータですので、これを単独
としてスティグメーターとして利用することももちろんできるのですが、ここでは、
偏向器をそのままスティグメーターとしても利用する方法についてまず述べることにし
ます。
図2の左側は一様な偏向場を印加したしたときのX軸上の電場分布E1 vs Xわ表しています。
完全な一様場ができていれば直線になるわけですが、E3項、E5項があるため、二次曲線が
少し平らになったような形をしています。このカーブの上の面が平らなのは、E3項が小さ
く、符号の反対のE5項が目立っているためと考えられます。図2の右側の図は、左側の図を
全体に右側に寄せたような形とも見れますが、実は、E2項即ち、4極場を加えた場合を示
しています。
図2について言うと、このような電場分布のピークの移動は、左の図を大体2磁極線と見た
とき、これに斜めに直線を引いて足し合わせると、このような移動が起こります。二次
曲線というのは3次即ちE3で、1次の直線は2次即ちE2を表します。こうしてみますと、
非点というのは軸ずれと同じではないかということがわかります。軸ずれを作るだけなら
ば左右の電極の電圧をずらしてやるだけで実現するはずです。滋養気でもかまいません。
幸い、電場を使った偏向器の場合、+V1と-V1は別々の電源を使って電圧を供給していま
すから、+V1+V2, -V1+V2という電圧を設定することはたやすいことです。これだけで
非点補正に必要な4極電場を作り出すことができます。これがX方向であるとして、
+Vx+V2, -Vx+V2と書きなおしますと、上下の極には-Vy-V2, +Vy-V2と与えれば完璧です。
左右または上下のどちらかだけを使う場合と、左右と上下のどちらにもV2を与えた場合
とは何が違ってくるかといいますと、それは加速電圧の違いになります。これは、次の
ように考えてみれば理解できます。いま、水平方向だけに+V2をかける場合を考えてみま
しょう。このとき、4極全体から-V2/2を差し引いてみます。そうすると、+Vx+V2/2,
-Vx+V2/2, +Vy-V2/2, -Vy-V2/2となって、完璧なV2印加と同等になり、違いは全体に
-V2/2を印加したこと、即ち加速電圧を-V2/2だけ変化させたことだけが違うことになり
ます。この加速電圧変化は、偏向器を出れば修正されますから、偏向器を通過する間だけ
少しばかり減速、加速レンズ作用が加わるということになります。
図2では偏向場の高次の項であるE3に対して非点補正場E2を加えた例を示しましたが、
レンズ場の軸が狂っている場合にもこのような電場分布のシフトが起こりますから、
軸の狂いによって非点が出てくるわけですから、大変です。電子顕微鏡の調整で
軸合わせは難しいからと軸合わせをしないで非点の調整などばかりやっていますと、
いつまでたっても非点の調整が完成せず、自信喪失になってしまいますが、その理
由がここからわかるかと思います。軸合わせがきちんと出来ていない限り非点合わせを
やっても仕方がないのです。軸の狂いは非点の下だということです。
図3の左上は4極場E2だけの場合、右下はダイポール場E1だけの8極子中のポテンシャル
分布を示しています。右上と左下はそれらの中間の場合です。4極場の中心がダイポール
が加わることで左寄りになり、ついには外に出てしまっています。8極子を使って、
ここに示すようにダイポールとクアドルポール即ち4極子を組み合わせて発生させる
ことができます。
最後に大切なことは、非点の場合、Xを水平方向とした場合、Yは上下方向ではなく
対角線方向即ち、水平軸又は垂直軸に対して45°の方向であるという点です。
確かに非点を作るためには軸をずらしてやればよいのですが、水平方向と垂直方向の
二方向にしかずらせない構造では非点補正器としては使えないのです。幸い、8極子
は45°回転に対して対称な形をしていますから、上で述べたことを45°回転した方
向に対して実行すれば、それがY方向の非点を作ることになります。図4には、X方向
とY方向の非点の両方を作った例を示しています。それでは、水平方向に伸びた非点
に対して垂直方向に伸びた非点はどのようにして作られるのでしょうか。それは
加える4極子の符号を変えてやればよいのです。図4の右側の図では右肩上がりの非点
でしたが、左肩上がりの非点にするためにも45°方向の非点の符号を変えてやれば
実現します。
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図1.静電8極デフレクター兼用スティグメータの3D表示。 |
図2. 偏向用電場の中心軸X上電場分布(左)とそれに非点補正場を重畳した場合(右)。 |
図3. 8極子にダイポールと4極場を単独で入れた場合と重畳した場合のポテンシャル。 |
図4. X方向(左)とY方向の非点を作らせた場合。Y方向とは45°の方向である。横と縦の違いは
符号の違いで調整される。 |
*1: K. Kanaya, Reminiscences of the Developement of Electron Optics and Electron Microscope
Instrumentation in Japan, Advances in Electronics and Electron Pgysics, Supplement 16, "The Beginning of
Electron Microscopy, ed. by P. Hawkes, 1985"
*2: A. V. Crewe, High Intensity Electron Sources and Scanning Electron Microscopy, in Electron Microscopy in material science,
ed. U. Valdre, Academic Press 1971.
*3: W. D. Riecke, Practical Lens Design, in Magnetic Electron Lenses, ed. PW Hawkes, Springer-Verlag, 1982.
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