カテゴリ一覧
EOS津野
電子光学講座
contact eostsuno@yahoo.co.jp
8極子を使うと同一面内でXとY方向に一様な電場を作ることができます。しかし、8極のすべてに 電源が必要となり、二段偏向をするためにはその倍すなわち、16個の電源を必要とします。ただ、 救いはこの2個の8極子と16個の電源を用いれば、スティグメーター(非点補正子)も兼用するこ とができます。8極子は、もっとも一般的な静電偏向器と言えるでしょう。

8極子を使った静電偏向器

図1に8極子を使った静電偏向器の3D図面を示します。また、図2には、XY面の断面図を各電極 に与える電圧と共に示しています。ここで、VxはX方向の電場を作るための電圧、VyはY方向の それを表します。今、X方向の電圧についてだけ見てみることにしましょう。左側が-Vx、右側 が+Vxになっていますが、ギャップも含めて考えると、それぞれ180°ずつを占めていますから、 前のページで調べた、一様場を得るための角度120°をはるかに超えています。しかし、上下の 電圧を見てみますと、+-Vxではなく、+-bVxと書かれています。この係数bを0から1までのいろ いろな値を入れて、電場分布を調べたグラフが裏先生の本「ナノ電子光学」(共立出版2005年) のp.146に出ています。それによると、b=root(2)-1=0.4142の時に電場が一様になることが示 されています。

同じ形の電極を8本並べた多極子で、X方向に一様な電場を作るときには、横方向の4本の電極に +-Vxを与えたとしたら、上下方向の4本の電極には+-0.41Vxの電場を与えれば良いということが わかりました。いま、図2で黒い字で示したX方向の場合について述べましたが、まったく同じ ことは赤い字で書いたY方向の電場についても言えます。そこで、X方向とY方向にそれぞれ好きな 電場を作り、その合計の電圧を各電極に与えれば、任意の方向に任意の大きさの電場を作ること ができることがわかります。ただ、図からわかりますように、8個の電極に与えられる電圧は すべて異なる値となりますから、電源は8個必要になります。前ページで説明した2段偏向を 行おうとすれば、その2倍、すなわち16台の電源が必要になるわけです。

さて、これまではX方向の電場とY方向の電場について独立に求め、それらを合成すると、ベク トル和の方向に電場ができるという考え方をしてきました。しかしながら、実はもう一つもっと 簡単な理解の仕方もあります。それは、電場の方向はコサイン関数で表されるという考え方です。 図2の電極は、水平線の右側から反時計回りに数えて、22.5°67.5°、112.5°、157.5°、202.5°、 247.5°、292.5°、337.5°の8方向に向いた極があります。このコサインを取りますと、0.9239, 0.3827, -0.3827, -0.9239, -0.9239, -0.3827, 0.3827, 0.9239となります。0.3827/0.9239=0.4142 ですから、0.9239V1の電圧をV1とした場合には、0.3827V1の極の電圧は0.4142となりますから、 上の場合と同じ比率であることがわかります。

このようにコサインで考えると、係数bの値がいくらになるかわざわざ実験したり、シミュレー ションをしなくてもいくらの値を用いればよいかがわかります。さらに便利なのは、このコサ イン則は8極子だけに適用されるわけではなく、何極の場合でも、各極の大きさが一様でない場 合にも使うことができる一般的な規則です。

コサインの法則でさらに便利なのは、電場の向きを回転させるのに、Cos(θ+α)として各極に 与える係数を計算すればよいことです。ここで、θは各極の方向、αが電場の回転角になります。 電子顕微鏡の偏向器などはすべて、X, Yで表示されていますが、向きαと強度Iで表すことも できるわけです。

偏向器と非点補正器のトップに戻る
図1.静電8極子の3D表示
図2. 静電8極子のXY断面
            
電場偏向器
電極数電源数形状
4極
4x2
4x2
8極
8x2
8x2
12極子
12x2
4x2
20極子
20x2
4x2
    
電場非点補正子
電極数電源数形状
8極
8x2
Defと共用0
8極
Crewe*2
8
     
磁場偏向子
電極数電源数形状
鞍型
2x2
2
トロイダル2
     
磁場非点補正子
電極数電源数形状
45°
2x2
2
8極
金谷*1
2
2-coilx2
Liecke*3
2
*1: K. Kanaya, Reminiscences of the Developement of Electron Optics and Electron Microscope Instrumentation in Japan, Advances in Electronics and Electron Pgysics, Supplement 16, "The Beginning of Electron Microscopy, ed. by P. Hawkes, 1985"
*2: A. V. Crewe, High Intensity Electron Sources and Scanning Electron Microscopy, in Electron Microscopy in material science, ed. U. Valdre, Academic Press 1971.
*3: W. D. Riecke, Practical Lens Design, in Magnetic Electron Lenses, ed. PW Hawkes, Springer-Verlag, 1982.
著者のページ