土井 秀明  江角 真  佐藤 貢 二村 和孝  高口 雅成  品田 博之 {2} High Resolution CD-SEM System Yoichi Ose, Makoto Ezumi and Hideo Todokoro 

EOS津野
電子光学講座

コンタクト eostsuno@yahoo.co.jp
 

世界中のTEMメーカーは今や3社に絞られましたが逆にSEMは10社を超えるメーカーが 競っています。その中でも、試料とOLの間にET検出器を置いて、SEM独特のコントラスト を守り抜いているZeissと、何よりも空間分解能重視で世界の半導体検査用SEMの半分 以上のシェアを確保している日立が典型的なSEMのメーカーであると言えましょう。 ここでは、世界のSEMメーカーの国と メーカー名をご紹介します。20年以上前には、電子顕微鏡学会にはSEM開発の担当者は 小人数しか出席をしなかったものですが、今や電子のとれた顕微鏡学会では、SEM 担当者がその中心的存在となっています。電子顕微鏡学会を揺るがす大きな出来事と しては、生物学の形態学から遺伝学への進化に伴って、生物向けのTEMの需要が激減 したことがまず挙げられますが、かなりの数の生物学者が今やSEMに場所を写して活躍 しておられます。立体的に像が観察できるSEMは、生物試料のような複雑な系には、 その形態帯を知るのに便利だからでしょうか。形態学から遺伝学に移ったとはいっても、 やはり、自分の調べている試料の形状を知らなければ話にならないからでしょうか。 その他には、収差補正法の成功によって、むしろ、SEMでは高分解能は、半導体検査 装置などの人工生成物に対しては必要だけれど、自然界には原子分解能に到達出来 ないのであれば、収差補正を必要とするような高倍率で見たい対象は存在しない、 半導体などの人工生成物だけが数万倍以上の高倍率を必要としているものだという ことを明らかにしてくれました。ここでは、SEMの大きなメーカーである、Zeissと 日立ハイテクのSEMについてその構成を詳しくご紹介したのち、世界のSEMメーカーが 現在どれだけあるかをご紹介しましょう。私自身は、会社員時代はTEMの担当をして おりましたが、退職後の仕事として取り組んだのは、その多くがSEMでした。SEMは ここ10年間を見て見ましても、新規参入を目指して開発を始めたメーカーの数も多く、 、依然として、魅力ある開発対象と考えられる商品であり続けていると言えましょう。

日立のSEM の特徴

1969年 には日立初の商用SEM 「HSM-2」を発売{1}。分解能にブレークスルーをもたらし たの は電界放出(FE)形電子源(a)の実用化でした。FE電子源の発明者である米国 シカゴ大学のAlbert V. Crewe教授の指導を受け、1972年には国産初の商用FE-SEM 「HFS2」を発売し,当時の一般的なSEMの三倍を超える高分解能(3 nm)を実現しました。 そ の後,FE電子源を搭載した半導体ウェー ハ専用の測長SEM「S-6000」を1984年に 発売。1985年にはより超高分解能を実現 したインレンズFE-SEM「UHS-T1」を鳥 取 大学に納入し,世界初のエイズウイルス のSEM像撮影に貢献しました。

磁場浸潤型レンズとスルーザレンズ検出器

TEMでは早い時期に磁場浸潤型レンズの使用による分解能の飛躍的向上が図られ、電場 レンズとの性能の差がはっきりとし、電場レンズを選択した電子顕微鏡メーカーの 撤退の原因にもなりましたが、SEMではConventionalと呼ばれる、試料に磁場のかから ないタイプの対物レンズが使われ続けました。その理由は検出器にありました。Zeissの SEMで説明しましたように、ET検出器を試料と対物レンズの間に置いて使うためには、 試料を無磁場、無電場の空間に置く必要がありました。しかしながら、やがて、TemScan と呼ばれる、TEMにビーム走査機能を付けてSEMやSTEM像を観察できる装置が当時日本電子 にいた小池によって作られました。ここでは、SEMの検出器は対物レンズの上部に取り付け られました。このタイプはスルーザレンズ方式と呼ばれ、装置もインレンズSEMと汎用SEM の合体したタイプが作られるようになりました。しかしながら、 FEGの登場でインレンズ SEMが力を失うと、磁場浸潤型レンズとして、大きな試料を入れられる方式が模索されました。 スルーザレンズ検出器としては、日立のウィーン型ビームセパレータとET検出器による 方式{2}(図5参照)と、Zeissによるインレンズ検出器方式が代表的です。

日立は汎用SEMと半導体検査用SEMで別の装置作りを選びました。そのため、検査装置 では、図6に示すように、リターディングの採用、そのための対物レンズの分割、対物 レンズ底面を平らにするなど、汎用SEMでは出来ないレンズ構成となっています。半導体 デバイスの微細化に伴う高分解能化のニーズにより, 走査電子顕微鏡は急速に進化を 遂げたのです。現在では,これまで走査 電子顕微鏡では不可能だった0.34 nmの格子 分解能(STEM)を 実現する装置を提供できる時代になっており,透過電子顕微鏡で 観 察していたバイオテクノロジー分野への応用も期待されています。

スルーザレンズ方式の検出器

セミインレンズではレンズコイルが試料の上部にあるため二次電子の検出に困難が ありました。このため、対物レンズ磁場で巻き上がった二次電子が磁場のなくなった ところで広がってしまうのを防いでコイルの上に置かれた検出器に持ち込むための 工夫(図10参照)が必要でした。日立SEMの特徴は、フィールド・エミッション電子銃 (図8参照)、高空間分解能対物レンズ(図7参照)と、これに吸い上げられた全2次電子 のExBウィーンフィルタ(図12参照)とET検出器による検出(図12参照)です。

日立のウィーンフィルタ・ビームセパレータの特許も数年後には切れますので、Zeiss の対物レンズとET検出器、日立のWien型ビームセパレータによる対物レンズ上を登って 来た全2次電子の検出機能を組み合わせたSEMを作ることで、Zeissと日立のSEMの長所を 兼ね備えたSEMを今から開発しておけば、両特許の切れる数年後に空間分解能と コントラストの両方に置いて最も優れたSEMが開発できる可能性があるのではないかと 考えられる。

Zeiss,日立以外のSEM

Czech TeScan
Delong Company

Germzny ICT
Israel OPAL Technologies

Japan Apco
Holon
      JEOL日本電子
Seiko (Hitachiが買収)
Technex工房 (永久磁石SEM)
Netherland FEI
U.K. Cambridge (Zeissが買収)

SEMはこれだけ多くのメーカーがひしめき合う市場である。特徴のあるSEMを今から準備し、 両者の特許の切れた時点で発売すれば、トップのシェアを獲得できるかもしれない。
作成日 2018/05/19 2019/02/09, 2022/03/18
文献.
{1} 日立評論、Vol.94 No.02 168?169 測る―社会・産業分野に貢献する計測技術
Hitachi, Ltd., depend-wd-of-2ndele-gemini目次 SEM(走査型電子顕微鏡)
1.SEM開発の歴史及び検出器
2.SEM用対物レンズ
3.SEM二次電子の発生
4.SEMの_ET検出器
5.低加速SEMのためのリターディング
7.永久磁石を使ったSEM
10.著者のページ

6.電子銃や検出器とレンズの関係>
図1.日立のCD-SEMの概略構成図。

図2.日立のCD-SEM対物レンズの右半分のメッシュ(左)、磁場等高線(右半分)、レンズ特性。 1.最初のページ

図3.日立FEGのチップ先端。

図4.日立SEMの構成図。

図5.日立SEMの2次電子検出(ビームセパレータ省略)。

図6.日立のCD-SEMの対物レンズ。

図7.Wien Filterビームセパレータの構造とET検出器並びに2次電子の軌道。

図8.OpeaのCD-SEMカラム。

図9.ICTのCD-SEM。