EOS津野
電子光学講座

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TEMに、STEM用走査像観察装置を取り付け、4分割した半導体検出器を取り付けると、 磁区などの位相物体に対する、位相差STEMにすることが出来る。英国グラスゴー大学の チャップマン教授によって、提案された位相差STEMであるが、4個の検出器の強度を足し たり、引いたりすることであらゆる方向の磁区構造を画像化することが出来る。これに 用いる対物レンズは、高電圧SEMのページに示した、ビーム照射系と結像系の2つの磁場 発生領域を持ち、試料空間は磁気シールドされたレンズを用いるほかはないが、薄膜試料 に対する便利な磁区観察手段となっている。

一方、最近になって、フレネルゾーンプレートを用いて、わずかな磁区のコントラストを 強調して磁区像を高いコントラストで表現する方法が日本で始められた。この方法によれば、 位相差のわずかなコントラストを強調して表示できるようになった。但し、私は、この方法を 試したことがないので、文献からご紹介できるだけであることをお断りしておかなければならない。
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位相差STEMによる薄膜の磁区観察

位相差STEMは標準の照射ビームのスキャンニング機能を有する透過型電子顕微鏡には ついていない4分割された半導体検出器を標準のSTEM検出器と交換し、図1の下の方に示す ような4個の検出器のそれぞれの電流量を演算する機能を電気回路に付加しなければ ならない。薄膜の検出器の自作と、電気回路の制作が出来ない場合には、特別注文 でメーカーに依頼しなければならないが、両者ともに、それ程難しい作業ではないので、 工作室などの機能が整備されている実験室の場合には自作できる程度の改造である。 4分割検出器は、太陽電池などに利用されている薄膜を検出器の台に4つに仕切って蒸着 すれば作れるし、回路も4個のデーターの足し算、引き算が出来るようにしたうえで、 表示すればよい。これを最初に行ったチャップマンも、大学の研究室で、工作室の助けを 借りて自作したものである。  私は、この手法の紹介をチャップマン博士が来日したときの講演会で聞き、一緒に聞いて いて、その後つくばの研究所に就職した関口氏と一緒に直ぐに同じ装置を準備して真似を してみたことを覚えている。4個の別々の方向を向いた検出器を作ってもらって、その いずれの方向の磁区のコントラストの足し算、引き算が出来るので、試料の回転をうまく やって、磁区のコントラストがうまく出るように合わせるのよりも、検出器の組み合わせ 方でコントラストが最大になる方向を見つける方が容易なので、複雑な形のドメインが 入り組んでいるような試料にはこの方法は便利ではないかと思われた。  また、デフォーカス法などでは、形状のコントラストと、磁区のコントラストを はっきりと分離して磁区模様は、磁区だけ、構造データーは構造だけと区別して 表示出来ないため、両者がごちゃごちゃしてわかりづらい場合が多いが、この ような試料の場合には、特に威力を発揮記する手法である。というのも、構造の データーは、検出器によって、そのコントラストを反転していないので、引き算に 寄って値が〇になるが、磁区のデーターは、コントラストを反転しているため、 引き算によって、コントラストが2倍になるのである。

フレネルゾーン・プレートを使った薄膜の磁区観察

Enhancementof low-spacial-frequency components by a new phase-contrast STEM using a probe formed with an amplitude Fresnel zone plate, M.Tomita, Y.Nagatani, K.Murata, A.Momose, Ultramicroscopy 2020年11月号 https://doi.org/10.1016/i.ultramic,2020.113089 普通、電子顕微鏡で軽い元素で出来たものを観察することは難しく、生物系の 試料では、染色と言って、重い元素で軽い元素を置き換えて観察すること が一般的でした。しかし、染色をしたくないあるいは出来ない試料に対しては、 薄低コントラストのままで我慢しなければなりませんでしたが、これまでに 色々な方法が生物系の試料をそのままで観察する方法が試みられてきました。 例えば、 その中で成功した一つの解が、フレネル・ゾーン・プレートを用いる方法です。 コントラスト増強の一つの方法として試みられてきた方法には、位相差電子 顕微鏡法がありました。この方法は、磁性材料に対しては有効に使われたわけ ですが、生物試料に対してはうまくいきませんでした。というのも、位相板を 対物レンズの直後に配置しなければならないと考えられていたからだそうです。 この場所では、ディフラクション・パターンに集光した強力な電子線に位相板が さらされて、直ぐに使えなくなってしまっていたのだそうです。私はこの実験を したことがありませんので、何故、位相板が電子ビームにさらされることで劣化 してしまうのかわかりませんが、位相板を必ずしも、対物レンズの焦点面に置く 必要はなく、磁区コントラストを見る時に行ったように、中間レンズで電子回折 図形を拡大してから、検出器にビームを入れてやれば、検出器が破壊されてしまう ことはないように思いますが、生物屋さんたちのおやりになることはわからない ことだらけなのかもしれません。

いずれにしても、この人達は、試料より下に位相板を入れるのをやめて、対物レンズ より前方に位相板を配置することにしたそうです。この結果、位相板の劣化を防ぎ、 高い像コントラストを得ることに成功したのだそうです。位相板としては、レンズ作用 を持った、回折格子であるフレネルゾーンプレート(FZP)を専用にデザインし、窒化 珪素膜という、厚さ20nmの薄膜の上に収束イオンビーム装置を使って作成したそうです。

位相差STEM法の原理

試料の手前に置かれたFZPを通過する際に、その一部が散乱されて、収束あるいは発散 することで、3種類の電子線に分離されるそうです。その結果、焦点面の異なる複数の 電子線で試料を走査することになるそうです。FZPで散乱された電子線は、位相がそれ ぞれ90ずれるという性質も持っているそうです。試料によって散乱された電子線は 同時に、その移送を90°ずらせることになるそうなので、試料によって散乱された 電子線が後方の検出器で、電子線の干渉パターン(図参照)として記録されます。 この干渉パターンを基に試料の像を再構築するのだそうです。波の干渉という現象は、 通過する試料の状態に非常に敏感に反応するため、より高いコントラストで観察する ことが出来ることになるそうです。

こうしてみてきますと、この方法では、直接検鏡しているときには像は見えず、 画像処理してから初めて、高コントラストの像が現れる手法のようである。とすれば、 どの様にして、撮影場所を選択し、フォーカスを合わせるのか疑問でもあり、視野の 選択もでたらめに行って、たまたま沢山の写真の中からきれいな像が得られた場合に 良しとする手法ナノか、疑問に思わざるを得ない。写真がすぐにコンピューター に送り込まれて、計算が直ぐ終了し、像を身ながら直ぐに画像処理されたハイ コントラストの像がディスプレイ上に表示され、撮影馬車の選択やフォーカス合わせ などが行なえるように装置を構成できるというのであろうか。

もし、この方法が、検出器を対物レンズの焦点面に置くと、検出器が壊れるという ことを修正するためにのみ行なわれたのであれば、検出器を対物レンズの焦点面 に置くのではなく、磁区構造を観察するために示したと同じように、分割検出器 を対物焦点面にではなく、中間レンズを通した後の拡大された焦点面の場所に 置けば、ディフラクションパターンが拡大費用辞されるため、検出器が破壊される こともなく、位相差STEMとして使うことによって、コントラストを高くすることが より簡単に出来るのではないかと思ったシダてある。 ここに示した方法は、半導体のパターンを作るのにも、専門的な技術を必要とし、 得られたパターンの解析ソフト作りも難しそうなので、かなりな専門的な技術を 持った人でなければ準備が困難ではないかと思われる。

対物焦点面に検出器を置くと、検出器が破壊されることが、検出器を試料の 手前に置いた理由であるならば、検出器を4分割STEM方で述べたと同じように、 中間レンズの後に置くことによって、ディフラクションパターンを拡大してから 検出器に当てるようにすれば、検出器期の破損も防げるのではないかと思うので、 その方がずっと装置の構成も単純となり、画像処理も単なる足し算、引き算 だけで良いので、素人細工でも作れるので良いのではないかと思うが、両者の 方法に一ぢるしぃコントラストの差があるというのであれば、話は違って 来るので、両者の比較が欲しいところである。


図1. DPC-STEM法に寄る磁区観察装置の光線図。

図2.DPC-STEM法による1.2%Fe-Co合金単結晶の磁区とその強度プロファイル。

図3.DPC-STEM法による1.2%Fe-Co合金単結晶のDPC法STEM(上)磁区とスリット法TEM(下) の磁区模様の比較。

図4. 普通のSTEM(左)とDPC-STEM(右)の鏡筒光線図の比較。 2020年のプレスリリース研究成果・電子顕微鏡の像コントラストを飛躍的 に向上させる手法を開発、東北大学 多元物質科学研究所 公報情報室
Press/tagen.tohoku.tagen@grp.tohoku.ac.jp

図5. フレネル・ゾーン・プレート・STEM法による像コントラストの強調。
同上から引用。
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作成日 2021/10/09