ポジトロン静電レンズ系の解析
1. はじめに
ヘルムホルツコイルの中を通って原子炉から運ばれてきた陽電子は、加速電圧を5kV
にまで高められたのち、ビーム径を縮小され、磁場から脱出し、磁場レンズによって
そのビームサイズを縮小されたのち再放出系に入ります。ここではネガティブ・
アフィニティの効果により、ターゲットに入射したビームは入射ビームの直径を
同じくしながら、ターゲットに垂直方向に同じ陽電子ビームを発生します。即ち、
電子銃として働くのです。ここで発生した陽電子は再放出系から加速電圧XXVで
ターゲットに垂直に飛び出します。SEMの場合には電子レンズによってビームを縮小
すると、それに伴ってビームの開き角が増大しますが、陽電子ビームの再放出系を
電子レンズの後につなげることで、ビームサイズをその開き角を大きくすることなく
ビームサイズだけを縮小することができます。このように再放出系を用いることに
よって、もともと弱いビーム強度しか持たない陽電子ビームを大きなサイズから
縮小し、電子顕微鏡として使えるサイズまで全体としてのピム強度を保存したまま
縮小することができます。従って、この再放出系は陽電子ビームを電子顕微鏡として
利用する場合には、電子銃に相当する部分とみなすことができます。しかしながら、
すべての電子顕微鏡では電子銃は負の高電圧上に置かれ、アース電位上に置かれた
電子レンズに向かってビームを加速していますが、ここ産総研の再放出系はアース電位
上に置かれているため、ここで発生した電子ビームを加速して、プラスの高電圧上
に置かれた電子レンズや測定機に陽電子ビームをぶつけることになります。つまり、
ここでは電子の符号がプラスであることと同時に電子銃とレンズや測定系の電位が
逆転しているという二重の電圧逆転の系の上に置かれていることに注意が必要です。
以下では、このようにして再放出系から飛び出した低加速電圧の陽電子ビームを多数
の静電レンズ系を用いて実験に必要な高加速電圧にまで持ち上げる系と、そのビーム
を縮小するための磁場レンズ、縮小した陽電子を試料に当てて、試料内部の空孔の中に
存在する電子に衝突させて電子と陽電子が衝突したときに両者が対消滅し、そのときに
発生するγ線を検出するためのガイガーカウンターを備えています。ガンマ線は容易に
物質を通り抜けるため、検出器は真空外に置かれています。ここでは、空孔の空間分布
を測定するため、ポジトロンビームを細く絞り、また試料の場所を変化させるため、
ビームを細く絞り、試料位置をXYステージ上においてこれをスキャンし、空孔の空間
分布を測定するためのSEM機能を持たせています。
静電レンズの構成と電子軌道の計算
図1には、再放出後の陽電子を加速するための静電レンズと加速レンズのアセンブリ
の構成図と、それに対応した二次元の電場計算用入力データを示しています。全系は
長く、しかも軸対称なので、軸対称二次元の計算を行うための入力データーを画像
表示させたものを示しています。最終のレンズは磁場レンズであり、別途計算する
ため、入力データーから省かれています。表Iに各電極に与える電圧の条件を3種類
示しています。図2に図1に対して表Iの条件3を与えた場合の電場分布を示しています。
電極の置かれていない場所はシールドパイプでおおわれているため、高い位置の電場
は直線になっています。図3はこの電場分布の中にビームを条件3で走らせた場合の
ポジトロンビームの軌道です。二次元で計算した軌道は光軸を横切る位置で反対向き
に描かれていますのでわかりにくいですが、いったん電場の強い領域で一点に収束
したのち、再び広がっています。
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EOS津野"eostsuno@yahoo.co.jp"
著者のページ
作成日 2019/03/25 修正
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図1. アインツェルレンズと加速レンズの全体構成。 |

表I. 静電レンズの電圧条件。 |

図2. 条件3の場合の電圧分布。 |
と室温(T2)の差。

図3. 2次元で計算させた電子軌道。軌道は高さゼロで折り返して表示されている。 |
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