コイルの後ろに鉄のリングを付けますと、コイルは、非点補正子のようになります。非点補正や偏向器に
使われるコイルは、サドルコイルと呼ばれています。サドルは馬の鞍のことですから、円弧に沿って
曲率を一つ持っているだけではなく、それと直行方向にも反対の曲率を持ってカーブしていないと本当の意味での
サドルにはならないのですが、電子顕微鏡の世界では、曲率が一つだけのコイルもサドルコイルと呼び
ならわされています。鉄ヨークが背面にあるサドルコイルは、それでもポールピースはないわけですので、
鉄心付電磁石ではありません。ただ、背後に鉄のリングを持つ事から、前と後ろにも鉄のシールドを
付けることが出来るようになり、これで磁場分布をある程度急峻に立ち上がり、立下りをさせることが出来る
ようになります。
図2に、電場と磁場の光軸上の分布を示します。この分布がほとんど同じ形になる条件は、Z軸方向の電極の
曲率を変化させていくとすぐに見つけることが出来ます。電極よりも磁極の方を少しだけ飛び出させた方が
良いようです。つまり、パラメーターは二つです。ただ、変化させるのは電極の曲率だけで良いようです。
場の分布が大体決まったところで電子軌道を描かせてみますと、図3のようになりました。電子軌道の偏向は
見られません。Wien条件が成立し、ビームは直進したといっても良いかもしれません。ただ、電子軌道が
上下に対象ではないことが気にかかります。これは、ビームが上向きに少し偏向しているのをウィーン条件を
少し外すことで下向きに変更させているために起こっている非対称性であると思われます。すなわち、まだ
完全にはフリンジの電場と磁場の形は一致してはいないということだと思われます。従って、この分布で良し
とするか、まだ駄目とするかは、収差の大きさによりますが、ここではまだ4極場を加えておらず、非点なし
結像を行わせる以前の状態にとどまっていますので、収差の評価までは至っていません。いずれにしても、
コイルの背面に鉄のリングを置く方が、ウィーン条件が合いやすくなるということがわかりました。
図5には、図3の軌道が得られた、R=70mm, L=32mmの時の電場分布をXY面とXZ面について示しています。きれいな
分布が得られています。コイルの作る磁場分布と同様の電場分布を作るためにはかなり電極の長さを短くし、
また、電極の曲率も大きくする必要があることがわかります。それにしても、前面と背面にミラープレート
を入れたことで、電子の偏向がほとんど消えたことは大きなことでした。これを可能にしたのも、コイルの
背面に鏡像効果のための鉄パイプを入れたことが大きかったと思われます。もっと細かくこれらのパラメーターを
調節すればかなり完成度の高い対称な軌道が得られるのではないかという期待がもたれます。
図5. 図3のフィルタの電場の等高線分布 |
図6. 電極の曲率半径Rと電極の長さLeを変えた時の電子軌道の変化。コイルの長さLm=40mmの場合。。
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作成日 2012/03/25
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