Wien Filterのシミュレーション
.Wien Filter 開発の歴史
  製作のテクニック
.1. Andersen型二段コイルによる一様磁場
.2. トロイダルコイルによる一様磁場
.3. 多極子空芯コイルによる一様磁場 その1
.4. 多極子サドルコイルによる一様磁場 その2 鉄のミラープレート付
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磁場を作るにあたって鉄心を用いずにコイルだけを用いることのメリットは作ることが容易で あることによります。もう一つは磁場の一様性を高めることが出来ることもありますが、 これは、コイルの巻精度と鉄の加工精度とどちらが高くできるかという問題でもあるので 一概には決められません。ウィーンフィルタの場合には、もう一つ大事な問題は、電場分 布とZ軸上の分布の形を一致させることが出来るかという問題があります。先に述べた 二段式コイルとトロイダルコイルの場合には、この問題に触れずに来ました。それは、 これらのコイルをウィーンフィルタに応用した先人たちもその問題に触れていなかったからで、 その場合もここで述べる多極子コイルと同じ取り組みが必要になるので、ここで一緒に 考えることにします。Z軸上の電場分布と磁場分布の形を一致させることが出来、Wien条件を 電子軌道の全面にわたって成立させることが出来れば、コイルによる磁場の生成は、 ウィーンフィルタにとって魅力ある方法となります。 多極子コイルでは、一様場はもちろん作れるわけで、さらには4極場 多極子を8極から12極に拡張すれば、さらに6極子、8極子も作れるようになります。 ただ、ここでは、磁場のZ軸分布を電場のそれに一致させるための電極形状の問題に絞って 議論をしていきたいと思います。

多極子空芯コイル付Wien Filterのウィーン条件 その1

図1に多極子(ここでは8極子)空芯コイルと、円弧状の8極子電極を使ったウィーンフィルタを示してあります。 図を見てすぐわかるようにこの種のウィーンフィルタの特徴は、右側の図にみられるように、電極が中心で 電極間距離が狭くなり、入り口と出口(左端と右端)で広くなる形をしていることです。このような形をした 電極構造をもつ、空芯コイル磁場生成型のウィーンフィルタはこれまでに二つ発表されています。一つは チェコのLencovaとVicek氏らによるもので、 2000年にEURENというヨーロッパ地区の顕微鏡学会で発表されました。もう一つは、北海道大学の成果報告 に論文の全文が乗っていますが、触媒研の 朝倉研究室 におられた新見さんの論文に載っています。

どちらも同じ図1のようなコイル及び電極で構成されていますが、違いは、Lencova三の方は、コイルの後ろに 鉄の円筒がついていること、こちらは8極子ですが、新見さんの方は、12極子を使っているという点に違いが あります。新見さんの方は、Lencovaさんより何年も後になってからの報告ですが、引用はされていないようです。 図2に示したのは、軸上電場と軸上磁場の分布を比較したものですが、図1に示したような長手方向に円弧を 描いた電極を使用せず、Z軸方向には同じ直径のままで進む電極を用いた場合について示しています。この図 からわかるように、一般に磁場をコイルで作ると、その分布が広がってしまいます。つまり、フリンジのところで 磁場は緩やかに減衰します。これに対して、電場は急速に落ち込みますので、電子ビームの入り口と出口で、 磁場だけにさらされてしまうことになります。そこで、空芯コイルの磁場分布と同じ分布を電場分布で 実現するために、このような円弧状の電極形状が考案されたわけです。

図3に磁場分布と、図1のような円弧状の電極を用いた場合の二つの電場分布が示してあります。円弧の半径を 60mmにした場合と、100mmにした場合が示してあります。何種類か曲率を変えて電場分布を計算しますと、この図の 左側に重ね合わせて示してありますように、磁場分布と一致する条件を容易に見つけだすことが出来ます。図の 場合では、R=60mmで分布はほぼ一致しています。上に示した二つの論文の著者らも発表しているいくつかの報告の 中でこの比較を行っていますが、いずれも場の分布が一致したことを述べています。

ところが、図4を見ていただくとわかりますが、場の分布が一致したように見えても、電子軌道は偏向を受けて しまっています。図4の場合には、2mm近くも軌道は曲がってしまっています。いったん軌道は曲がっても、中心 部でのウィーン条件を外してやれば、出口で軸に平行にビームを出すことは出来ます。ですから、問題なく 装置を使用できる場合がほとんどです。それに、他のエネルギーフィルタなどでは、このようなわずかな角度の 偏向ではなく、90°あるいはそれ以上の角度にビームを曲げてエネルギー分散を作っているのが普通ですから、 このようにわずかな曲りが起こったからと言って装置が使えなくなるわけではありません。

問題は、他のエネルギーフィルタなどから比べればまことに贅沢な話ともいえるかもしれませんが、理論との 比較にあります。Wien Filterは、光軸がまっすぐだということで、厳密な理論が作られています。収差を消す 条件などが良くわかっています。ただ、その理論が絶対的条件としているのが、ウィーン条件の全領域での 成立です。ウィーン条件が崩れてビームが曲がった場合の理論はないわけです。従って、収差を小さくしたりする ための操作などを試行錯誤で実験によって行うのでない限り、このように偏向を受けた装置については、他の ビームがまっすぐでない装置と同じように、手さぐりになるということです。

その2に続く。

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図1. Z軸方向に円弧形状の電極を用いた空芯コイル8極Wien Filter。コイルの外側と、 前後の円筒及び円盤は非磁性金属製。
図2. 8極子コイルと、金属8電極を用いた場合のZ軸上電場分布(左)と磁場分布(右)。磁場 分布の方が電場分布に比べてブロードな分布となる。

図3. 軸上磁場分布と電場分布の比較。場の分布を比較してこれを一致させることは容易。
図4. 電子の軌道。左:電場のポテンシャル分布の中での軌道。右:軌道の縦軸を拡大表示したもの。
作成日 2012/03/21

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