EOS津野
電子光学講座 Contact: eostsuno@yahoo.co.jp
ここでは、TEMを使って、バルク試料の格子像観察をする方法の提案をします。この内容は、2019年 6月17日に名古屋で開催された顕微鏡学会で北海光電子の武藤がご提案させていただきました。バルク試料 を電解研磨などの方法で穴を明けて、TEM像として格子像が観察できるように作成します。残念ながら、現在の TEMの試料ホルダーは、それほど高い電圧が印加できませんので、試料通過後の電子の加速電圧を後で光を 当てたときに発生する光電子の加速電圧と同じにするため、低い加速電圧に設定します。この状態で、収差補正 を行ったうえで格子像が観察されるようにTEMを調整しておきます。TEMで薄膜領域の格子像が観察されましたら、 試料を少しだけ移動し、同じ試料のバルク領域に対して、試料の裏面に光を照射して光電子を発生させ、発生 した光電子の像を観察します。透過像の加速電圧は、PEEM像のそれと同じになるように設定してありますから、 フォーカス合わせはすぐにできるのではないかと思われます。光電子の像は、透過像よりかなり弱い可能性が ありますが、TEM像観察のための照射ビームを十分弱くするなどして、バルク領域のPEEM像と薄膜領域のTEM像 の両方が観察できるような条件の下で、バルク領域の格子像が観察できるように装置を微調整します。これまで、 PEEMは表面分析に興味の中心があり、必ずしも、格子像が観察できる領域までの倍率での像を観察するために 必要な外乱に対する対策などは施されてきませんでした。しかしながら、STMで成功したとはいえ、バルク試料 の格子像観察はなお、電子顕微鏡利用者にとって夢だと思われます。PEEMは、入射ビームが光であるため、試料 内への入射ビームの潜り込みの深さが、TEM観察のための薄膜試料の厚みと同等程度のため、バルク試料に対して、 格子像観察が可能な唯一ともいえる観察手法と考えられます。まだ、誰一人挑戦していない方法ではないかと 思われます。PEEM専用機では、格子像観察に十分な振動や騒音などに対する対策が充分ではありません。 格子像観察が当たり前にできるTEMをPEEMが観察できるように改造することだけが、バルク試料の格子像 観察の近道です。

TEMでてバルクの格子像をPEEMとして観察

PEEMは、これまで表面分析のための装置と考えられており、例えば図1に示すような 装置が一般的でした。そのため、装置の最大倍率も10,000倍程度が想定され、もっと 高倍率にして、原子の像まで観察しようと言った試みは、なされませんでした。ここでは、 PEEM装置でバルク試料の格子像観察を行うための方法についてその可能性を探って いく事にします。低倍率から格子像の観察までの幅広い倍率範囲で像を観察できる のは、今のところ、透過電子顕微鏡TEMに限られていますので、PEEM装置を改良して、原子 レベルの観察が出来るように持っていくよりも、TEMを少しだけ改造して、バルクの格子像が 観察できる装置に持って行く方がはるかに容易だろうと考えられます。 図1は、私が設計して作ったことのあるPEEM専用機の一例で、Wienフィルターと言う分析装置と それが作る2次収差をキャンセルするためのもう一つのフィルタをエネルギー選択のための スリットの後ろに取り付けたPEEM専用機の例を示しています。この装置は、高々10,000倍の 最高倍率しか出せませんが、色々の工夫が込められた高級PEEMとなっています。

PEEM像の格子像観察のために透過電子顕微鏡(TEM)を使う方法について以下で説明しますが、TEM 装置の使い勝手に関しては、色々な条件がありえますので、
1. TEMを自由に使うことが出来る場合。
2. 共同利用のTEMしかないので、鏡筒をばらして改造部品を組み込むことなど考えられない。 と言う2つの場合について考えます。鏡筒に入れる必要のある部品は、試料に下から光を当てるための 鏡の据え付けです。、
1. TEMを専用機として使える場合。
図2がPEEM機能をTEMのアタッチメントとして組み込むための方法を示しています。試料の裏面 (下の面)に光を照射するための方法の一つです。これは、お使いのTEMの対物レンズの改造をする ために、TEM鏡筒の真空を破って、鏡筒をばらしたりなどする改造が許される自由度の高い装置を お持ちの方向けの改造方法です。
対物レンズの下には視野制限絞りがあります。同じ面内に使っていない穴があれば一番良いのですが、 なければ視野制限絞りの孔を同時に利用して、光を導入する道を確保します。電子ビームの通路の 邪魔にならない場所に鏡(レーザ光でない場合は、凹面鏡)を置いて、入って来た光を試料下面に フォーカスするように調節しておきます。光は、対物レンズの中を少し斜めに通って、試料下面を 照射します。
2. 共同利用のTEMしかないケース

図3は、用いるTEMが共同利用のもので、鏡筒をばらして、対物レンズの下に鏡を差し込む工事 などは出来ない場合に光を試料に照射するための方法を示しています。像観察室の前面には大きな ガラス窓がありますから、このガラス窓を外して色々なものを像観察室に入れることは真空を破る必要は ありますが、比較的大げさな工事にならない簡単な工事で終わらせることが出来ますので、共同利用の TEMしかない場合にお勧めの工事です。ただ、この場合、光源と試料の距離が長くなりますので、光源 としては、レーザーを使うしかないと考えられます。ただ、この場合光路が長いので、光は中心軸を 登っていくように鏡を設置しなければなりませんので、像観察室に配置されているTVカメラの位置を ずらせるための偏向コイルを設置し、像観察室内の余分の孔を利用して、コイルに供給する電流の ための配線を取り出します。つまり、TVカメラで像を観察するための電子ビームの方を移動し、 光の通路を光軸上に確保します。

図4は電圧印加ホルダーですが、実際には試料部分に高電圧を印加できる2軸傾斜試料ホルダーを 使う必要があります。傾斜角度を変えるたびに試料の傾きが変わるわけですから、試料が直接 レンズと向き合っていますと、高電圧が試料とレンズの間にかかっていますので、その分布が 変化してしまいます。試料傾斜角を変えても、この電圧分布が変わらないように、試料傾斜機構の 外側でレンズに向き合っている場所に覆いをして、試料傾斜角を変えてもレンズとの間の電場が 変化しないように試料傾斜機構の外側に覆いをして、試料傾斜角度の調整をしても、ホルダーと レンズの間の電場分布が変化しないようにする必要があります。この試料ホルダーの改造はかなり 難しい可能性がありますので、まずは、格子像観察の前に一般的なPEEM像の観察のためだけの 高電圧印加が出来るだけで試料傾斜は出来ないホルダーを作って、PEEM像の観察だけを行ってみて、 その時出てきた問題点があれば、それらをまず解決し、普通のPEEM像がうまく観察できるようになった 後で、2軸傾斜ホルダーの改造に挑戦した方が良いかもしれません。

収差補正 TEMの試料ホルダーを使う限り、100kV以上の高電圧、それがPEEMの加速電圧になるわけですが、を 確保することはできませんので、2軸傾斜試料ホルダーの製作に成功したとしても、格子像はそれだけ では観察できません。加速電圧が100kVより低い場合には、収差補正なしでは、格子像の観察は無理 だからです。利用できるTEMが共同利用のTEMである場合には、収差補正付きのTEMを利用できる可能性 も高いですが、逆に専用出来るTEMの場合には、収差補正機能が付属しておらず、自作する必要がある 場合の方が多いのではないかと考えられます。ドイツのCEOSで販売している収差補正装置は、難しい ので自作は困難ではないかと思われます。これに対して、ミラーはもともと負の収差を持っています ので、簡単です。ただ、ミラーは行きのビームと帰りのビームが同じ場所を通りますので、これまでは 両軌道を分離するビームセパレーターが必要で、ビームセパレーターがもともと必要とされたLEEM 以外では使われてこなかったのですが、小池が考案したパルスビームを使って、電子ビームを反射 させるミラーと、通過させる静電レンズとを時間によって切り替えることによって、ミラーを2枚 使うことによって、図5に示すような透過1、反射2、反射1、透過2の順で、ビームセパレータを 必要とせずに、直線軌道だけでミラー補正器をコントロールする方法が提案されましたので、 パルス技術を利用しなければなりませんが、簡単に、収差補正が出来ます。しかも、PEEMでは、 入射ビーとしての光をパルス光源を使えば、電子ビームもパルスになりますので、便利です。 ただ、この方法の欠点は、普通のTEM像で最初に格子像が観察できる条件を確立して置く際に、 TEM像で収差補正を実現することがTEM像で収差補正を行うためには、入射電子ビームをパルス にしておかなければなりませんので、困難が大きくなります。従って、この場合は、あらかじめ、 100kV以上の高電圧下で、収差補正なしで、PEEMとして使うためのTEMを100kV以上の高電圧下で、 格子像が観察できる状態にあることを確認したうえで、PEEMで低加速電圧で収差補正をしながら 低加速電圧下で格子像の観察に取り組むしかありません。小池によって、パルスビームを使った 直線光軸ミラー収差補正が提案されてからすでに何年も経過していますが、まだ誰も実際に試みた 人が出てこないのは、パルス技術のむつかしさによるものと思われます。
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作成日 2019/06/21

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図1.エネルギー分析装置付きPEEMの例。
図2. 対物レンズ下の視野制限絞りを通して光を試料に当てる方式。
図3. 像観察室に光を反射して試料に当てるための鏡を設置する場合。
図4. 高電圧印加試料ホルダー。
図5. 2段ミラーによる収差補正装置。
 

目次(全体)

0.最初のページ(目次)
1.
レンズの光学(FromTheGodHand)
2.透過電子顕微鏡(TEM)の電子レンズ
3.
走査電子顕微鏡(SEM)レンズ
4.
光電子顕微鏡(PEEM)電子レンズ
5.偏向と非点補正
6.収差補正
7.エネルギー・アナライザ(文献から)
8. エネルギー・アナライザ(計算・作成済み)
9. その他(スピン回転器)
10.ヨーロッパ(Czech)訪問
11.著者のページ