図1. コンベンショナル型(左)とセミインレンズ型(右)のSEM用レンズ

図2. 3種類の典型的SEM対物レンズ。(a). コンベンショナルタイプ。(b). インレンズ型(TEM型)、 (c). セミインレンズ型。

図3. SEM全体の模式図。

図4. イマージョンレンズ内の二次電子軌道。

図5. 対物レンズの上に設置された二次電子検出器とビームセパレータ。

図6. 磁束線に絡まって対物レンズに入った二次電子を対物レンズの上まで引き 上げる電極と、二次電子の軌道。
目次 SEM(走査型電子顕微鏡)
1.SEM開発の歴史及び検出器
2.SEM用対物レンズ
3.SEM二次電子の発生
4.SEMの_ET検出器
5.低加速SEMのためのリターディング
6.電子銃や検出器とレンズの関係>
7.
永久磁石を使ったSEM
*********************************** 目次(全体)EOS津野の電子光学
1.最初のページ
2.レンズ設計
3.偏向と非点補正
4.走査電子顕微鏡SEM
5.光電子顕微鏡PEEM
6.エネルギー・アナライザ
7.Wien Filter
8.収差補正
9. スピン回転器
10.著者のページ

EOS津野
電子光学講座

コンタクト tsuno6@hotmail.com
SEMの対物レンズはTEM/STEMに比べてはるかにバラエティに富んでいます。試料についての要求、検出器の都合、 いろいろの点がSEMのレンズに制約を加え、また新たな発展を促してきました。電子光学の立場からもいろいろ 面白い点が沢山あります。TEM/STEMのレンズのようなイマージョン型のレンズが長い間なぜ使えなかったのか、 試料にビームが当たる前に加速電圧を下げて使うリターディング型はどんな利点あるいは欠点があるのか。 リターディングレンズで収差を小さくする条件は何なのか。そういった点についてお話していきます。


走査型電子顕微鏡用対物レンズ

図1には、現在SEMで用いられている典型的な電子レンズの二つの型が示してあります。左側はConventional と呼ばれています。普通のレンズということです。右側がSemiInlensと呼ばれています。レンズの磁場の中 に試料が入り込んでいる方式です。光の顕微鏡では浸潤型と呼ばれています。光のレンズの場合は、レンズ はガラスですから試料をその中に入れることはできないわけですが、レンズと試料を水に浸すことによって、 水がレンズの続きの役割を果たしてくれているわけです。半導体の製造装置・リソグラフィー 装置では、回路の線幅を狭めるための方策として、浸潤型のレンズが採用されています。

この方式はTEMでは当たり前に使われてきました。TEMの場合は、電子顕微鏡開発のごく初期にはコンベ ンショナル型に相当する試料をレンズの下に置く方式も使われましたが、すぐに試料を磁場の中に入れる 方式に移り変わりました。試料がレンズの磁場の中に入っているほうが、レンズの外に置かれるよりも 収差が小さく、顕微鏡としての分解能が高くなるわけですが、SEMでは長い間ほとんどConventional型の 対物レンズが使われてきました。 高分解能ということで、TEMで使われていたレンズをそのまま使って小さな試料に限定はされますが、浸潤型 のレンズも1980年代に使われるようになりました。これはin-lens方式と呼ばれています。図1の二つの型の 間にインレンズ入れた場合を図2にし召しました。このインレンズ方式は今でも SEMで一番高い空間分解能が得られる方式として市場に出ています。SEMで使われている浸潤型のレンズ がセミインレンズ方式と呼ばれているのはレンズの二つの磁極が共に同じ方向にあって、試料を挟み込んで いないからだと思われます。。

それでは、どうしてSEMではConventional型が長く使われたのでしょうか。その理由は検出器にあります。 図3に、SEMの概略の装置構成を示します。対物レンズと試料の間の左に二次電子検出器があります。 これは、シンチレーターとフォトマルチプライヤーで構成されています。まず、検出器の先端から数100V 程度の弱い電圧が試料に向かってかけられます。二次電子を効率よく集めるためです。集められた二次電子は 8~10kV程度の電圧で加速されて、蛍光体に当たり、光に変えられます。新地れーたーの後ろには光電子増倍管 があり、一旦光に代わった電子は再び電子に置き換えられて増幅されます。一旦光に帰る理由は電子をそのまま 増幅する装置が見当たらず光電子増倍管は、光として入ってきた信号を増幅する装置だったからと思われます。 この方式の検出器は、エバハート・ソーンリー型検出器と今でも呼ばれています。Eveheartも、Thornleyも SEMの開発者であったケンブリッジ大学のOatley先生のお弟子さんたちです。Oatleyは、のちにSirの称号を 与えられましたので、サー・チャールスと呼ばれています。彼のお弟子さんたちは団結力が強く、今でも 10年毎には集まりを持っているようです。私も、サーチャールスの80歳の記念講演会にそれとは知らずに 参加させてもらって驚いた記憶があります。数多くの有名になったお弟子さんたちの中で、このお二人の 名前だけが今でも二次電子検出器の名前として、サー・チャールスの存在も知らない人でも、エバハート・ ソーンリー検出器の名前は知っているというのが現状です。

話が逸れましたが、それではどうしてエバハート・ソーンリー検出器をつかうと、セミインレンズ型の 対物レンズが使えなくなるかといいますと、試料に磁場がかかっていますと、試料から出た二次電子は 数ボルト程度の電圧でふらふらと試料から出てきますので、このレンズの磁場に捕まえられて、螺旋 運動をしながら、磁力線に沿って上にあがって行き、対物レンズの穴の中に吸い込まれてしまいます。 磁気ボトルとか、磁場ミラーと呼ばれる現象が実はここで起こっています。試料から大きな角度で放出 された二次電子は、磁場分布の強度が一番強くなる位置から先に進むことができず途中で引き返して しまいます。つまり、磁場は二次電子に対して半透明のミラーになっているわけです。図4のSpecimen と書かれた位置よりも下にも軌道が描かれているのが、このミラーで戻ったビームで、実際には試料に 吸収されてしまうわけです。

これで、いくらエバハートソーンリー検出器に強電場をかけても、二次電子を集めることができなくな るわけです。それでも、シュノーケル型の高分解能レンズへの要求は特に1980年代から1990年代にかけての 低加速電圧SEMへの移行に関連して低加速電圧でも解像度の高いSEMの必要性から研究が進みました。 解決策は、エバハート・ソーンリーデテクターを対物レンズの上に置くという方法でした。 磁束線に絡みついて対物レンズの中に入った二次電子はレンズの中では急に磁場がなくなりますので、 ばらばらになってレンズの穴の淵に吸い込まれてしまいます。これを防いで、対物レンズの上まで 二次電子を引き上げるには、二段以上の電極を用いるか、ソレノイドコイルを入れて、ゆるく巻き上げを 継続させます。

対物レンズの上にまで達した二次電子を捕まえるためには、先ほどと同じエバハート・ソーンリー検出器 を使いますが、対物レンズの上で検出器に高電圧をかけてしまいますと、対物レンズに入る前の電子軌道 が乱れ、レンズ作用にも悪影響を及ぼしますので、これを防ぐために、電子軌道上にウィーンフィルタを 使ったビームセパレーターを置きます。ビームセパレーターというのは、一次ビームを直進させ、二次ビ ームを90°曲げてやることのできる光学系です。このビームセパレーターによって、曲げられた二次電子が 検出器に向かって飛んでいきますので、これに電圧をかけて加速して検出器にぶつけてやります。 こうして、試料に磁場のかかるセミインレンズを使っても二次電子を検出できるようになりました。

この二次電子検出方式は、それほど簡単ではなかったこともあり、すべてのメーカーで実施しているわけでは なく、他では対物レンズの試料に近い側に穴をあけて、検出器を差し込んでいます。この方式では、対物レン ズに穴がありますからそれが非点の原因になってしまいますので、それを最小限にする工夫が必要になります。

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作成日 2012/02/02  改定 2018/05/19