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EOS津野
電子光学講座
静電レンズはいろいろなところに使われています。私が「EOS津野」という名前で仕事を始めてから、 一番多く設計や制作を依頼されたのが静電レンズでした。私は、サラリーマン時代はTEM, SEM, LEEMなどに携わっており、静電レンズ設計の経験に乏しかったので、慣れるまでしばらく時間が かかりました。静電レンズは、放電をしないように作ること、真空度に対する要求が厳しい場合 が多いので、電極や絶縁物の材料や距離、形状などが大切になります。その意味からも実用的な 色々の点の方が収差係数の大きさなどより重要で、電子光学特性としてはフォーカス特性、何ボルトの 電圧でフォーカスできるかといった点が最も大切になります。しかし、下手をするとといいますか、 素人設計では巨大な収差を生むようなレンズを作ってしまう場合もあり、シミュレーションは 避けては通れません。ただ、電場計算のソフトは沢山あり、磁場の場合のように有限要素法(FEM) でないとダメということはありません。


静電レンズ

静電レンズは大きく分けて二つの種類があります。一つはアインツェルレンズと呼ばれているもので、 図1にそのポテンシャル分布を示しましたように、三枚の電極から構成され、第一電極と第三電極は アース電位、二番目の電極だけが高電圧電源に接続されてこの電極の電圧を調節してレンズ作用の 大きさを変えます。つまり、アインツェルレンズは磁場レンズと同じような働きをする普通のレンズ だと考えることができます。図2にはレンズ形状のほかに、電子軌道も付け加えておきました。図2 のアインツェルレンズは、機能的にはトランスファーレンズの役割をするもので、電子ビーム をある場所から別の場所まで持っていくために使います。ここに示した例では、加速器の研究所 などで作られたポジトロンビームを主には、ソレノイドコイルを用いてサイクロトロン運動をさせて 実験装置の近くまで輸送しますが、装置の近くに来てからは、再放出といって、一度ターゲットに ポジトロンをぶつけます。ポジトロンでは、エレクトロンと違い、ターゲットからネガティブ エレクトロンアフィニティと呼ばれる、ポジトロンのエネルギー順位が真空順位より低くなっ ているために、電子がターゲットから再放出されます。このとき、入射するビームの強度は5kVと言った 値ですが、再放出ビームは1eVと言った弱いエネルギーしか持っていません。このため、このエネルギーの 違いの分だけ輝度が高くなったビームが再放出されることになります。強度の弱い広がったポジトロン ビームの明るさを強めることができるのです。このような場所で、ターゲットに電子をぶつけたり、 再放出されたポジトロンを再び輸送する場合にこのようなアインツェルレンズが使われます。

もう一つの静電レンズがイマージョンレンズとか、リターディングレンズ、加速レンズなどと 呼ばれるもので、基本的には二枚の電極を用いて、電子ビームの加速電圧を変化させる場合に使います。 例えば、電子銃の陽極などでは最初の電極では電子ビームが出てくる数ボルト程度の電圧ですが、 二枚目の電極を10kVとか30kVにして電子をこれらの電圧まで加速します。逆に、いったん加速した 電子ビームを減速して、アナライザなどに入れ、アナライザを通過後の電子ビーム を再び加速して元の加速電圧に戻すといった場合に使います。これは、図4にその例を示します。

電子銃で電子を加速する陽極にバトラーレンズ[文献1]というのが有名です。とくに、フィールドエミッション 電子銃では良く出てきますが、このバトラーレンズ、話にはよく聞く割に、実際に使われている例を あまり見かけませんでした。一つには、図3に示しますようにこの形状は式であらわされ、グラフにしますと、 図のような形状になります。この曲面を加工するには数値制御旋盤が必要になるため、このレンズ形状が 提案された1970年代には加工が難しかったこともあります。今ではできますが、コスト的に高いものにつきます。 静電レンズでは、穴の付近で大きなレンズ作用が生じてしまいます。特に、 SEMの重畳場レンズのところでお話ししたように、リターディング型の電極では、弱い電圧のかかっている 電極付近に強いレンズ作用が集中します。バトラーレンズの目的は、レンズ作用が穴の周りだけに集中してしまう ことを防ぐために、静電ポテンシャルが穴の影響を受けにくくするように求められたものなのです。 しかし、そう入っても図3に示す式からは孔をどのように空ければよいのかは何もわかりません。それは任意 になるわけです。そこにあいまいさがあるわけです。同じことは、一様磁場を売るための磁極形状を与える式の場合 にも出てきました。その場合も、式は極面形状を与えているのですが、磁極が向き合う平面とその曲面をどう つなげるかについては、式は何も言ってくれませんでした。こうした点は理論の場合仕方がないのです。

次の図4に示したものは、バトラーレンズの形状を球面近似によって近似してしました図です。バトラーレンズの 間にウィーンフィルタを挟みこんでいます。通常、エネルギーアナライザのエネルギー 分解能は、アナライザの長さによって変わってきますが、そのエネルギーアナライザを通過する電子の加速電圧 の1/1000とか、1/5000程度の値になりますので、加速電圧が低い条件で使うほど、絶対値としてのエネルギー分解能 が高くなります。そのため、もともとの加速電圧が高い装置では、エネルギーアナライザに入る前に加速電圧を低く し、出てからまた元の加速電圧に戻すということが行われます。そのために使われる静電レンズが、リターディング (減速)レンズと加速レンズだというわけです。この減速、加速レンズにバトラーレンズを使えば減速による収差の発生 を少しでも抑えられてリターディングの効果を大きくしてやることが出来ると考えられます。

図5は10kVでバトラーレンズに入ってきたビームを100Vにまで減速した場合の電子の軌道を示しています。10,000Vと 9,999Vの日本のビームを描かせています。上の図が、エネルギー分散をするXZ方向の軌道、下の図がエネルギー分散を 起さないYZ面の軌道です。非常にはっきりと1eVのエネルギー差による分散が見られます。ウィーンフィルタはビームが 直進するエネルギーアナライザですから、このように減速するのが容易で、フィルタの長さを50mm程度と短くしても 大きな分散を得ることが出来ます。1eVの分差によってビームがどれほど離れているかは、右上の図に示したビーム プロファイルによって見ることが出来ます。右下の図は、0.1eVのエネルギー差でもその差を分離できるかどうかを 見たものですが、0.1eVだけ離れた日本のビームははっきりと分離しています。10,000eVと9,999.9eVの二本のビーム です。このように、バトラー電極とウィーンフィルタの組み合わせによって、高分解能エネルギーアナライザを快適に 動作させることが出来ます。 

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作成日 2011/09/04-->改定2014/09/16

図1.アインツェルレンズの電場ポテンシャル。
図2. ポジトロンビーム再放出用トランスファーレンズの形状と電子軌道。
図3.バトラーレンズの形状。
図4. バトラーレンズの間にウィーンフィルタを挟んだアナライザの構成。
図5. 10kVのビームを二段のバトラーレンズ間で100Vに減速、ウィーンフィルタを通して分散を作り、再び バトラーレンズでビームを加速10kVに戻した場合の電子軌道。(右上)XZ面の電子軌道。エネルギー分散あり。 (左下)YZ面の電子軌道。エネルギー分散なし。(右上)エ1eVk 1eVのエネルギー差に対するネルギー分散。(右下)0.1eVのエネルギー差に対するエネルギー分散。

文献

1. J.H.Butler, Digitaal computer techniques in electron microscopy, 6th Int. Conf. Electron Microscopy (ICEM) Kyoto (1966) Maruzen pp.190-191.