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EOS津野
電子光学講座
LEEMとして作成した鏡筒で電子照射系を使わずに、代わりに試料に光を当てることでPEEM像を観察できます。 このことから、装置開発ではLEEM/PEEMとして一緒にして議論されるといいますか、LEEMのついでにPEEMも 作れると、考えがちです。ところが、両者は実はずいぶんと違った装置だともいえます。それは、光源が LEEMでは電子であるのに対してPEEMでは光だと言うことによります。LEEMは電子を試料に照射して直接 写像によって像を作りますから透過電子顕微鏡(TEM)の試料をバルクに変えたものとも考えられますし、 バルク試料を観察するための走査電子顕微鏡(SEM)を走査型ではなく直接写像に切り替えたものとも 考えられます。応用の上からは、LEEMはSEMの仲間であり、SEMが時間的に早く動く観察に適しない のに対して、LEEMは直接写像の利点を生かし実時間観察が出来るという利点があります。しかし、 一般的にはLEEMの空間分解能はSEMのそれに及びません。

ところがPEEMは全く異なる装置だと言うことができます。観察対象が異なります。それはPEEMで見ている のは反射した電子や二次電子ではなく、光電子だからです。光電子は物質のバンド構造を調べる道具 としてXPSあるいは古くはESCAと言う分析装置として広く用いられてきました。PEEMはXPSの画像部分 とも考えられます。TEMやSEMにEDSやEELSといった分析装置をつけた分析電子顕微鏡がXPSとPEEMの 合体した装置だとも考えられます。しかし、多くの場合、分析ではX-線などのエネルギーの高い光源 が用いられ、PEEMには水銀ランプと言った可視光領域のエネルギーを含む光源が用いられます。 ここでは、PEEMに的を絞ってその電子光学系、特に対物レンズについて調べていきます。

LEEM/PEEMに使われる対物レンズ

図1に静電型の簡単な構成のPEEMの一例を示します。対物レンズ、中間レンズ、投影レンズの3段レンズ構成 で1000倍まで拡大できます。図2は3枚電極構成のPEEM対物レンズのポテンシャル等高線と、基本軌道である 像軌道と回折軌道を示しています。左側が試料面で右端が像面になっています。像軌道は中心面上から出た ビームが右端でフォーカスしています。回折軌道では、軸に平行に出たビームが一旦収束し、そこから右端の 像面に向かって大きく広がっています。回折軌道が収束した位置が焦点面で、ここに絞りを入れて像の コントラストを高めます。また、左端の試料面でのビームの高さと、右端の像面でのビームの高さの比が 倍率になります。

LEEM/PEEMに使われている対物レンズは、TEM/SEMで使われている対物レンズと大きく異なる点があります。 それは、LEEM/PEEMでは試料から出たビームの持つエネルギーが小さいので、これを加速する機能が 必要だからです。つまり、LEEM/PEEMの対物レンズは、TEM/SEMで言えば電子銃と対物レンズの複合体 のようなものと考えればよいと思います。電子銃では大きな角度範囲に広がって放出された電子が 加速によって狭い角度範囲に収まりますが、陰極が針状をしている場合はそれでも大きな広がりを 持つため、絞りで角度制限します。LEEM/PEEMは試料として 平らな板状のものが使われますので、TEM/STEMのようには出てくるビームは広がりません。 試料から出るときは全方位に放出されたとしても、強い電場の作用によって収束します。その様子は、 図3(b)にし召してあります。試料面から0~+-90土間で10°ステップで描いたビームの軌道です。放物線 状に広がっています。広がっていると言っても、試料面と平行なこの図では上下方向に出たビームも 水平方向に向かって収束する方向に曲げられているわけです。つまり、あらゆる方向に放射された 電子は、加速電場によって一方向に向かうように出て行くというわけです。PEEM が比較的明るい像を与えてくれるのは放出電子の角度範囲が小さいため、発生する電子の多くの 割合を像形性に使うことが出来るためと考えられます。

PEEMにおける電子軌道

図3は図1に示したPEEMの電子軌道をシミュレーションしたものです。1eVのエネルギーを持って試料から 放射され、対物レンズに加えられた電場によって10kVまで加速された電子の軌道です。中心面X=0の他、 X=+-0.1mmから放出された0,+-10,+-20,....,+-80,+-90°方向に放出された電子の軌道を描いています。それぞれ の位置から出たビームはZ=160mm近くで再び集まって像を形成しています。左側の縦に色の付いた密な線が引かれた 領域がレンズ電場のある領域で、ここでレンズ作用を受けた後、直進して像を形成しています。レンズ場の終了 した少し後に同じ角度で違うX位置から放出した3本の軌道が交わっている場所があります。この場所が、焦点面 で、レンズ中心からここまでの距離が焦点距離に相当します。ここに絞りを入れて、外側のビームをカット することによって、明るさは多少犠牲になりますが、焦点に集まったビームの広がり(ボケ)が少なくなるわけです。

図3の(b)には、左端の試料の中心Z=0から放出されたビームの先端を拡大表示しています。これは先ほど説明 した通りです。図3(c)に示した図は、やはりX=0のビームについて、像面上を拡大表示したものです。 出発したとき角度の大きかったビームほど早く左側で中心軸と交わっている。一番右側で交わって いるのが角度10°で放出されたビームです。この収束点のずれは球面収差によるものです。 一番外側の点を結んだ曲線が一番小さくなるところを最小錯乱円と呼んでいます。これが実際に顕微鏡 として観察したときに焦点があったと認識される場所を表しています。今の場合、その大きさは直径10μm です。この大きさが像の空間分解能を決めています。もちろん、この大きさは絞りの挿入によって、 ビームの放出角度を制限すればどんどん小さくなるものです。

ここまでは放出されるビームのエネルギーを1eV一定として議論を進めてきましたが、放出される光電子の エネルギーはもちろん一定ではありません。それでは、光電子の放出エネルギーは何によって決まるので しょうか。図4は、光電子分光(XPS)で使われる、光電子スペクトルの原理図を示しています。右側の図 が光電子スペクトルで、左側は、物質のバンド構造を模式的に示しています。両図の対比から わかるように、光電子スペクトルはバンド構造そのものといっても良いくらいなのです。PEEM像を議論するときには、 一番上のバンド即ち伝導バンドのみを考えればよいのです。もちろん、PEEMにエネルギーアナライザをつけ、 高いエネルギーのX-線を試料に照射し、右側の全スペクトルが取れる状態にし、この中の内核電子の エネルギー幅だけをフィルタリングして像を作ることの出来る装置もありますが、レンズ系だけのPEEM 装置では、伝導バンドにから光電子を放出させるに十分なエネルギーを持つ光を照射します。その場合、 伝導バンドから光電子を真空中に放出させるに必要なエネルギーがあり、仕事関数Wと呼ばれています。 図4にも図の中ほどに書き込んであります。仕事関数は物質によって異なった値を持っており、例えば 鉄は3.9eV, 金は4.9eV、小さいものではセシウムが1.9eV等となっています。化合物では、W-O-Csで 0.72eV, 酸化タングステンの9.2eV等が両極端の値でしょうか。いずれにしても、試料から光電子を 引き出すためには、これらの仕事関数の値より高いエネルギーを持った光を試料に当てる必要があります。 また、試料の伝導バンドにも厚みがあって、常に表面からだけ放出されるわけではありません。この伝導 バンドの電子が満たされているエネルギーの厚み分だけエネルギーは不確定になる要素を持っているわけです。 その様子は、図4の右側のスペクトルに現れており、一番上のスペクトルが伝導バンドからのものですが、 入射光のエネルギーが仕事関数と、伝導バンドの電子の詰まった厚み分のエネルギーの合計より高いエネルギーの 光であれば、このスペクトルの厚み分のエネルギーだけ、放射光電子のエネルギーは広がるわけです。 そうしてみますと、エネルギー幅の小さい光電子を発生させるためには、入射光のエネルギーを仕事関数 の値ぎりぎりに抑えればよいと言うことになります。

エネルギーの異なる光電子によってPEEM像はどれホトの影響を蒙るのかをシミュレーションによって 見てみたのが、図5です。(a)の場合は、ビームの放出角も90°まで、エネルギーも1,3,5eVと幅広く とった場合で、(b)の場合は、放出角は30°まで。エネルギーは1, 3 °の場合です。明らかに、角度と エネルギー幅を制限することによってフォーカス点のビーム広がりが圧倒的に小さくなっていることが わかります。図3と比べて、エネルギーの広がりがプラスされることによって、放出角の大きい場合の ビームの軌道が大きくそれてしまうことがわかります。このことから、照射する光を工夫することによって 光電子のエネルギー幅をなるべく小さくすることがPEEMでは特に重要であることがわかります。

もう一つ大切なことは絞りです。角度の大きいビームとエネルギーの高いビームは、絞り面上で外側に 必ず位置します。正しい絞り位置に適切な大きさの絞りを入れることによって、エネルギーと角度の 大きいビームをカットすることが出来ます。
図1. PEEMのレンズ構成。 (菅製作所・myPEEMから)。
図2. カソード対物レンズとそのイメージ及び焦点軌道。
図3. (a). PEEM対物レンズの電子軌道。0~+-90°の範囲に10°おきに放出された電子。 (b). 試料中心面から放出された電子~+-90°。(c). 像面付近の軌道拡大図。
図4. (a). 金属のバンド構造とそれに対応する光電子のエネルギースペクトル。
図5. 加速電圧10kVまで加速されたPEEM対物レンズ内の電子軌道。 (a)PEEMの電子軌道。0,10,30,60,90°方向に1, 3,5eVで放出された電子の軌道。 (b) 0,10,30°方向に1,3eVの初期エネルギーで放出された電子の軌道。

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作成日 2011/09/04-->修正2014/09/23