電子レンズのいろいろ
.FromGodHand
.電子顕微鏡レンズ開発史
.電子顕微鏡レンズの種類
.電子顕微鏡(TEM)用レンズ
.TEM/STEM用レンズのCs
.平行ビーム・ケーラー照明
照射ビーム平行化のためのレンズ設計
.静電レンズI
.静電レンズII
.SEM開発の初期
.SEM用対物レンズ
.SEM用減速レンズ
.LEEM/PEEM用レンズ

収差補正 2013.3旧版pdf
球面収差と色収差
シェルツァーの前提
4-8極子によるCs補正
電場・磁場4極子によるCc補正
減速電場4極子のCc補正
HexapoleによるCs補正
Wien Correctorによる補正
MirrorによるCs、Cc補正

走査型電子顕微鏡SEMの電子光学


.SEM開発の初期
.電子銃とレンズの関係
.SEM用対物レンズ
.低加速SEMの減速レンズ1
.SEM用減速レンズ2
.二次電子の発生
.SEMの二次電子ET検出器

偏向系とスティグメータ .4極子と一様電場生成条件
.8子による一様場の生成
.12極と20極偏向子
.8極スティグメータ

ウィーンフィルタ
.Wien Filter 開発の歴史
.Wien Filterの設計
.いろいろなWien Filter
.Andersen型二段コイル
.トロイダルコイル
.3. 多極子空芯コイル
.4. 多極子サドルコイル
.Wien Filterスピン回転器

エネルギーアナライザ
.アナライザの分類
.CDA127
.SDA180(HDA)
.半球アナライザ
.TOFと磁気ボトルを使った光電子分光

光電子顕微鏡PEEM
光電子顕微鏡PEEM
myPEEM
光電子分光

その他の電子光学機器
. スピン回転器
.ビームセパレータ


最初のページ

著者のページ
EOS津野
電子光学講座
Contact: tsuno6@hotmail.com
SEMの対物レンズはTEM/STEMに比べてはるかにバラエティに富んでいます。試料についての要求、検出器の都合、 いろいろの点がSEMのレンズに制約を加え、また新たな発展を促してきました。電子光学の立場からもいろいろ 面白い点が沢山あります。TEM/STEMのレンズのようなイマージョン型のレンズが長い間なぜ使えなかったのか、 イマージョン型のレンズはどんなものが検討されてきたのかなどについてお話します。


走査型電子顕微鏡(SEM)用
磁場型対物レンズ

SEMの対物レンズは図1(a)に示すように、試料(赤い長四角)が対物レンズの外にあるのが一般的でした。 このレンズは後でいろいろなレンズが出てきたときにConventionalと呼ばれました。やがて TEMに走査電子機能が付け加えられてTemScan[文献1]と呼ばれる装置が作られました。TemScanは試料の下の 検出器でSTEM像、試料の上の検出器でSEM像を見ることが出来ました。TemScanと呼ばれた装置は長くは 続きませんでしたが、STEMはやがてTEMの付属装置として、あるいはSTEM専用機として発展し、SEM機能は 30kVの高分解能SEMとして図2に示すような二段ステージ2段対物レンズを備えるSEMが作られ、高分解能用 には試料サイズに制限があるものの、TEM型レンズ(これは図1(b)に示すものですが、やがてIn-Lensと 呼ばれるようになりました。)、バルク試料はその下の方にすえられたConventional型のレンズで観察する と言う2段対物レンズを備えたSEMが現れたわけです。しかし、このSEMはフィールドエミッション電子銃 (FEG)の普及によって直ぐになくなりました。200kV等のTemScanはSEMとしては極、限られた応用ではあり ましたが、市場から消えることなく、今日まで作り続けられています。それは、日本のお家芸とも言われる 珪素鋼板の開発に欠かせない、磁区観察用SEMです[文献2]。珪素鋼板は、絶縁皮膜を掛けられていますので、 そのままでは珪素鉄の磁区像を見ることは出来ません。絶縁皮膜が珪素鉄に及ぼす張力によってその 磁気特性が左右されていますので、絶縁皮膜を剥がして磁区を観察しても意味がありません。そこで、 200kVと言う高電圧でSEMを使えば電子は絶縁皮膜の数ミクロン下の珪素鉄の情報を持った反射電子 を観察することが出来ます。こうして、200kVの高加速電圧TemScamは今も生き残って、日本の珪素鋼板 の優秀さを支えているのです。

SEMの対物レンズ改良の流れは上のin-Lens方式とはまた別のところからも起こってきました。 SEMでは、絶縁体や半導体のチャージアップを防止する有力な方法として低加速電圧での観察が提唱され ました。その理由は、よく知られた図3に示すような加速電圧に対する全放出電流量の入射電流量に 対する割合の変化によるものでした。試料が絶縁体の場合、電子ビームの照射によって試料は次第に 負のチャージがたまるように思いますが、試料からは反射電子や二次電子として電子が飛び出して 行きます。この試料から離れていく電子の入射する電子に対する割合は加速電圧によって図3のように 変化することがわかったわけです。こうしますと、その割合が1の場合には、いくら電子を照射しても 試料に電荷はたまらないわけです。その電荷がたまらない加速電圧がおよそ200Vと2kVの付近にある と言うわけです。SEMの標準的な加速電圧はかつて50kVであり、次第に下がって30kV程度で使われて いました。

もう一つの低加速化の要求は半導体分野から来ました。それはダメージを低減する要求です。こちらは 1kV以下の電圧を要求していました。半導体もチャージアップを防ぎたいので、数百ボルトの加速電圧が 欲しいわけですが、そこまで行かなくてもなるべく低くと言うことでした。もう一つは、レンズさえ良い ものが出来るなら、なるべく加速電圧を低くした方が電子の試料内へのもぐりこみが小さくなるので、 ビームサイズそのものの分解能が得られるので空間分解能上も好ましいと言う考えもありました。 こうした沢山の要求から、低加速電圧でも高空間分解能を実現できるレンズ開発が求められたのです。

低加速電圧においても高分解能を得るため レンズの改良に対する要求が高まりました。この要求に答える方法として二つのアプローチが ありました。一つはTEM/STEMと同じように試料を対物レンズの磁場の中に入れる、いわゆる磁場浸潤型 レンズを用いる方法でした。もう一つの方法として試料の直前で加速電圧を低くし、レンズの中では 高い加速電圧のままを保つリターディング型のレンズでした。

2. 走査型電子顕微鏡用対物レンズの特徴

表IにSTEM/SEMの対物レンズの種類とそれらを搭載した電子顕微鏡で保証されている空間分解能を示 しています。実際の装置ではもう少し良い値が報告されているかと思います。SEMの空間分解能は 必ずしも対物レンズのみで決まるわけではなく、加速電圧および電子銃の種類によっても変わります から、それらの条件も記載してあります。対物レンズの名称については図1に分類を使っています。 一般に、SEMの設計では電子源と検出器により重点が置かれ、レンズは三番目と言う事情もありますが、 SEMのレンズ開発が盛んに行われた時代がありました。それは、イマージョン(浸潤型)レンズと言う、 磁場の中に試料を置く方法がいろいろ提案された時でした。試料をレンズの中に入れると分解能が 上がると言う光のレンズではずっと昔から知られており、TEMでは早くから用いられてきた方法で すがSEMでは検出器との関係から二次電子がレンズの磁場にさらされない必要があって磁場浸潤型 の開発が遅れていました。Conventional型とMagnetic Immersion型のレンズを用いた場合の二次電子の 振る舞いの違いについては、チェコのMullerovaさんの仕事があります[文献3]。 低加速電圧でも高い分解能が得られるようにと言うことと同時に、大きな試料を磁場の中 に入れることのできる色々なレンズが提案されました。半導体試料が念頭にあったこともより大きな試料 と言うことに対する動機付けになったかもしれません。それがSEMにおけるレンズ開発の時代を作りました。 この時代に対して今は、検出器の時代と言ってよいのではないかと思います。

大きな試料の入る磁場浸潤レンズ

インレンズSEMはFEGの登場によってその役割が小さくなりましたたが、大きな試料を高分解能で見たいと言 う要求はFEGを使った装置においても継続しました。その理由は、低加速電圧で観察すれば絶縁体、 半導体試料を導電膜でコーティングすることなしに観察できると言うことが明らかとなったことに始ま ります。 大きな試料を入れるための方法としてシュノーケルレンズ、Mulvey先生の シングルポールレンズ[文献4]など、別の目的のために提案されていたレンズがまずSEM用として試みられ ました。両者は磁極が片側しかないと言う点は共通していましたが、シュノーケルレンズさはらにコイルの 断面を小さく作って大電流を流すと言うことも収差を小さくするための条件として加わっていたようでした。 Mulveyレンズの応用としては、早い時代の提案としては、HillとSmith[文献5] が1982年にあり、日本では、2002年の米沢[文献6]があります。 SEMへの適用を目的としたサイドギャップレンズ[文献7]の提案もありました。最終的には、 このサイドギャップレンズが現在セミインレンズと呼ばれて流通しているレンズに近いのですが、ここまで 到達するのに回り道をしました。図4には典型的な磁場浸潤レンズであるMulveyのSingle Pole-Lens(a) とTangのサイドギャップレンズ(b)についてレンズ形状と磁場分布を示しました。磁場分布の形はほとんど 同じですが、同一励磁(AT)に対して (a)の磁場の強さが(b)の半分程度しかありません。このため、 商用機ではなにも大きな電源を必要とするシングルポールレンズ(a)である必要はなく、もう一方のポール も伸ばして(b)のタイプに収斂していったのです。ただ、歴史的には多くの人達がMulveyレンズを取り上げ、 色々なレンズが提案され、SEMレンズ開発の黄金時代を築いたと言うことができます。Mulveyの提案では レンズを試料の下に置くこともその特徴の一つでしたがSEMでは大きな試料ステージを入れる都合上レンズ は従来通り試料の上に置かれるように変わったわけです。今では逆に、試料の下にレンズを置く方式を Mulveyレンズと言ってTOF装置で電子を磁束線に巻きつけるためのレンズとしての応用が発表されています [文献8]。 EOS津野でも図5に示すように、試料の下に置くポジトロンSEM用の対物レンズを設計しています。このSEMは 電子と陽電子か試料の中の空孔で衝突して消滅するときに出るガンマ線を計測する検出器と、対物レンズ そのものを真空外に置く設計になっています。

不思議なことにSEMの世界ではTangの論文[文献7]が引用されることがなく、自然にTangの提案した形に それぞれの研究機関で収斂していったかのように扱われているようです。Tangの論文は、SEMではなくPEEM レンズ設計で光電子を発散させずに分析機にまで導くためのレンズとして引用されています。 コンベンショナルと磁場浸潤型を切り替えて使うことのできる対物レンズも提案されたことが あります[文献9]。

最初のページに戻る

コンタクト・質問は、こちらまで♪EOS津野"tsuno6@hotmail.com"
著者のページ

作成日 2011/09/04-->改定2014/09/18

図1. 磁場型SEMレンズのいろいろの型。
図2. 2つの対物レンズと試料ステージを有するSEM。
図3. (a). SEMの加速電圧と全放出電子量の入射電流量に対する割合。
表I. SEM/STEMの分解能比較。
図4. (a). Single Pole Lensの断面と磁場分布。(b)SideGapLensの断面と磁場分布。
図5. ポジトロンSEM用対物レンズ 産総研
文献・大島先生、藤波先生

文献

1. 小池紘民、分析電子顕微鏡、材料化学 13 (1976) 217-227.
2. K. Tsuno, T. Yamamoto, Observed depth of magnetic domains in high-voltage scanning electron microscopy, Phys. Stat.sol. 35 (1976) 437-449.
3. I. Mullerova, I. Konvalina, Collection of secondary electrons in scanning electron microscopes, J. Microscopy, 236 (2009) 203-210.
4. S. Christofides and T. Mulvey, High flux density polepiece objective lens Electron Microscopy Vol. 1(1980) 70.
5. R.Hill, K.C.A. Smith, The single-pole lens as a scanning electron microscope objective, Scanning Electron Microscopy 1982/II (Pages 465-471) SEM Inc. AMF O'Hare (Chikago), IL 60666,USA
6. A. Yonezawa, M. Maruo, T. Takeuchi, S. Morita, A. Noguchi, O. Takaoka, M. Sato, B. Wannberg, Single pole-piece objective lens with electrostatic bipotential lens for SEM, J. Electron Microscopy 51 (2002) 149-156.
7. T. T. Tang and J-P. Song, Side pole-gap magnetic electron lens, Optik 84 (1990) 108.
8. J.E. Fulgham, J.Electron Spectroscopy and Related Phenomena 100 (1999) 331-355. 9. 藤谷、FEIヘキサレンズ (2005) 日本顕微鏡学会 関西支部会研究会